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それでいい

「だったらそのキスマーク、見えたらやばくないですかね。身体の傷も」 「あ、そうだね。見えない服に着替えてかなきゃ」 「脱いだら服もクソもないでしょうに……」 「脱ぐ機会ないから大丈夫だよ」 「え? ヤってないんですか、例の彼と」 「うん? 何が?」 「何が、って……」  きょとんと首を傾げる彼に、俺は眉をひそめる。 『セックスですよ』と当然のように答えれば、本当に今思い出したような顔をされ、俺のほうがおかしいのかよ、と掴み所のない彼の言動にいささか混乱する。  確かに彼は色んな姿を持っている。  どれが本当の顔なのか、これからも多分見極められない。でも、 「えっちだけが全てじゃないよ。まだ寸止め食らってて付き合ってもくれないし……。けど、それでも全然いいんだ」 「気持ち悪い」 「え、ひどい」 「ま、せいぜい頑張って下さいよ。応援してます」 「あは、ありがとう」  男に向かって例えるのは変だと思うけど、満開の華が咲いたみたいな笑顔。  そんな顔も、相反する残酷な冷たい表情も、紡がれる甘い囁きも、黒い言葉も。  つまるところ、全部が彼の本質なんだろうと、もはやとうに諦念した。 「君のおかげだよ、色々と」 「? 何がですか」 「俺が恋愛なんて出来るのも、その感情に気付かせてくれたのも」  ありがとうね、ととろけるような顔で言われ、なんとも居心地が悪くなる。  俺は普段悪態しかついてない自覚があるから、その台詞には違和感しかない。  しかしまあ、感謝の言葉はむず痒くて落ち着かないが、たまにはいいものだと思う。

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