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独白と諦念

 もうすぐ後半部分の撮影が始まる。  モニターを確認したり、談笑したり、各々で和気あいあいと休憩していた男優たちが、上着を脱いで赤いセットのなかに集まっていく。  さっきまでは明るく笑っていた者も、だらだらと気だるそうに眠っていた人も、突如として雄の本能を剥き出しにし、場の空気は熱を孕む。  肌色が絡み合うレンズのなかは、何度見ても異様で異質で、非日常な光景だ。 「思ったんだけど、君は恋をしたことがあるの?」 「もちろん。人が対象ではないですけどね」 「ふぅん。気持ち悪いけど嫌いじゃないよ、そういうの」 「はは、どうも。俺もあなたのそういうところ、なかなか好きです。変な意味じゃなく」 「分かってるよ」 「ていうか早くスタンバって下さい。押してるんで」 「はいはい。君って結構手厳しいよね」  肩を竦めて苦笑しながらも、生意気な口をきく俺に彼が叱ったことは、これまで一度もない。  抱いた男は数知れず。  俺が彼と組むようになってから、知っている範囲でも相当な数だということだけは分かる。  経験を糧に紡ぎ出される彼の言葉は、まるで計算されつくした魔法だ。  しかし、その彼が最近ご執心のあの人には、お得意の魔法が効かなかった。  薄汚い人間にはそれはとても新鮮であり、貴重であり、言ってしまえば珍事で。  今までも今も、見習えた生き様ではないが、まあ。  仕事に支障がないのなら、心から惚れ込んでいる相手だったら、それで。 ──彼が特定の人を作って困る者はたくさんいる。きっと容易にハッピーエンドは迎えられない。  けれど周囲がどうであれ、俺はただ、彼の意に従うまでなのだ。 fin.

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