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【開発中ノンケの懸念と本音】
【テツヤside】
右手にケータイ。
左手には手のひらにすっぽりと収まる長方形の薄く白い紙。
それらを見つめて、一人暮らしの畳の上で、胡座をかいて頭を抱える、俺。
悩みに悩み抜いた結果──。
やはり今日も、右手の指が画面を操作することはなかった。
白い紙には落ち着いた書体で、社名と役職と名前と、業務用のアドレスがシンプルに記載されている。
それだけ見れば何てことはない、いたって普通の、ただの名刺だ。
しかし、印刷された連絡先とは別に、俺が手渡されたそれには、余白部分に手書きの携帯番号が書かれていた。
『これ、プライベートの番号。いつでも連絡してね、待ってるから』
金を支払われた後、にっこりと笑って言われたその台詞を、心のなかでもう何度、反芻したか。
しかし、どうしても行動に移すことは出来なかった。
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