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まさかの

──あり得ない話ではない、とは、思っていた。  いつかはこんな日が来ることを、予測してないわけでもなかった。  だが、まさかここまで早々に、それも、本当に偶然。 ……とんでもないものを、見つけてしまった。  俺だって普通に男だ。  もはや自分は完全なノンケだと言い切れなくなってしまったとしても、溜まるものは溜まる。  アナニーを覚えてからは、アダルトグッズやそういったDVDは、いつもネットから通販していた。  そこで、見つけてしまったのだ。  溜まる一方の性欲を発散しようと、夕飯後にアダルト専門のネットショップを巡っていた先で。 ──アイツの出演している、ゲイビデオを。  パソコンの画面を前に、茫然と、ただただ、硬直した。  心臓が大きくはね上がり、鼓動も脈も皮膚を突っ切りそうなくらいに速まったのが、自分でも分かった。  マウスを持つ指先すら震えた。  DVDのサンプル画像をクリックし、拡大すると、知らない可愛らしい男と絡み合っているのは、やはりどこからどう見ても、見覚えのある顔。  まともに瞬きすら出来ない目で詳細を確認し、そこに載っていた出演者名を見て、やっとの思いでストン、と腑に落ちる。  予想どおり、ディスプレイに記された名前は、渡された名刺と全く同じものだった。 ───……  二日後、休日の昼間。  家に宅配便が届いた。  外からでは何の代物か見えないように梱包された、分厚い茶封筒。  中身は、パッケージに肌色の多いDVD。 ──思わず、買ってしまったのだ。  新作らしく、なかなか高かったのに。  気がつけばカートに入れて、購入ボタンを押していた。 「うーん……」  さて、勢いで買ったのはいいが……。  どうする、俺。  さっき届いた小包を手に、玄関先で立ちすくむ。  これでヌくのか?  いやいやいや、それはナイよな、さすがに。  でも、せっかく買ったんだし、勿体ないし……。  そうだな、勿体ない……から。  ごくん、と生唾を飲み込む。  何を緊張しているんだ、俺は。  たかがDVDごときで。  別に自分や身内が出演しているわけでもない。  あいつとは顔見知り程度で……、いや、もしかしたら、俺のことはすでに忘れてしまっているかも知れないくらいの、今にも切れそうな薄っぺらい関係だ。 「……」  だから別に、これしきのことで悩むなんて。 ──自分らしくない。  そう思い、物は試しに一度くらいは観てみようと、DVDの薄い包装紙を破った。

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