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ゆれる
──興奮なんて、するはずがなかった。
あいつの職業を目の当たりにし、思わず眉根を寄せる。
好奇心に突き動かされた二日前の自分をぶん殴りたい。
……ショックだとか、そんなの、思うこと自体が変なんだ。
友人でも、恋人でもない。まして知人と呼べるのかさえ危うい。
あいつは俺のものではないのだ。
誰のものでもなく、皆の、もしくはあいつ自身のもの。
……なんで、なにを、勘違いしていたのか。
消えたい。
落ち込んでいる自分が、とてつもなく恥ずかしくなった。
『んっ、ぁあ……ッ』
『好きだね、ここ』
『ひぁっ、好き、そこ、すきぃ……っ』
徐々に大きくなる、悩ましく卑猥な喘ぎ声。
聞き覚えのある、低い囁き。
後ろに指を挿入され、受けの男が薄くて白い身体を仰け反らせている。
タチはあまり画面には映らない。
けど、気持ち良さそうな声を漏らす受けの耳許で、時おり甘く言葉を紡ぎ、ねっとりと乳首に吸い付いて、唇に口付けるときだけは、嫌でも目に入った。
カメラはネコの表情やタチの指先を辿っていく。
白皙の肌を赤く色付かせ、ひくひくと腰を戦慄かせる姿は、間違いなく見る者を魅了するくらいに官能的だった。
ローションのせいか、ぐちぐちと粘着質な音をマイクが拾う。
──思い、出す。自分のされたことを。
カメラの存在を、身近に感じる吐息を、身体の熱さを、あいつの、甘い匂いと声を。
確かに不快感はあるはずなのに、気持ちとは裏腹にナカがむずりと疼いた。
「……っくそ、」
……うそ、だろ。
中心が鈍い痺れを持ち、反応していく。
部屋着のジャージを押し上げ、先端から滲んだ先走りが下着を濡らしていた。
なんだか急激に泣きたくなって、でも、後ろが寂しくひくついて。
ぐちゃぐちゃな思考のまま、身体はどんどんあの時の記憶を思い起こして、火照っていく。
こんなとき、どうすれば。
この、熱く冷たい感情は何なのか、どうしたらいいのか対処のしようも術もなく、心と身体の温度差に頭がおかしくなりそうだった。
それでも、情欲をくすぶられて、奥まった隙間から這い出す欲求は誤魔化せない。
抉られそうな心よりも先に手が動き、俺は──。
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