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本音と建前
わたわたと焦っているうちに、シャツの隙間から手が侵入し、腹を撫でられて。
「おい、だめだっ、いや……ッ」
びくつく身体は、歓喜の声を誤魔化せなかった。
──すきだ。
好きなんだよ、お前のことが。
この感情を自覚するまでにそう長い時間はかからず、むしろ、自分のなかではすんなりと納得出来た。
今まで全く下心がなかったと言えば、きっと嘘になる。
何度も家に上がって、色々な話をして、見てくれだけじゃなく内面も知った上で、好きに、なってしまった。
それでも“イヤだ”とのたまうのは、本来、こいつは好きになってはいけない相手だと、思うからだ。
「やめ、んっ、んぅ……っ!」
「っねぇ……、もう我慢出来ないよ」
酒の味しかしない唇に吸いつかれて、舌先で舐められて。
切羽詰まったような顔を向けられる。
余裕のない、俺を欲しがってくれていると伝わるその表情に、心が叫ぶ。
ひどく泣きたくなった。
「がまん、って……」
「分かるでしょ? どうして俺がテツヤさんに番号教えて、家にまで呼んで、なのにずっと手を出さなかったか」
「……っ、」
「仕事の対象としか見てない人に、そんなことしないよ、俺」
その言葉は俺にとって、求めてやまなかった台詞である。なのに。
唇に当たる吐息は熱く、情欲に火種がつく。
まっすぐな瞳、真摯な表情で見据えられ、心臓を揺すぶられるような錯覚がした。
「っちょ、ほんと、嫌だって……!」
ガタンッ、と思わず椅子から立ち上がる。
大袈裟なくらいの音が部屋に響き、室内は静寂に包まれた。
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