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おいつめる
これ以上、ドキドキしてしまう自分に耐えきれなかった。
気まずい沈黙に、目が泳ぐ。
どうにか場の空気を元に戻そうと切る口火を探すが、今までそういった時に気の利いた言葉なんか出た試しがないことを思い出し、もはや何も言えない。
熱を帯びた雰囲気は一気に冷め、張りつめた空気が痛い。
「──なら、逆に聞くけどさ」
「……」
「テツヤさんこそ、俺のこと何とも思ってないわけないよね?」
「……っ、」
「まさか普通の友達同士な気分だった? そんなはずないでしょ。その反応からして」
落ち着いた、けれど棘のある言い方でやつはふらりと立ち上がり、俺のほうに歩み寄る。
もうアルコールはとっくに抜け切り、あまりに的を射た台詞が恐ろしくなった俺は、逃げるようにゆっくりと後ずさった。
初めて見るやつの鋭い瞳から少しでも距離をとりたくて、この緊張感から解放されたくて。
とっさの嘘すら出てこない。
いや、その場凌ぎの嘘っぱちなんて、こいつには無意味だ。
「近付くなっ、」
「ねぇテツヤさん。何回、俺をオカズにした?」
「ちがっ、して、な……っ」
「嘘。絶対あるよね? 自分が抱かれるところ想像して、お尻いじったこと」
「だから違うって言って、んだ、ろ……っ?!」
反論しようとしたその時、踵に何かが当たって、躓き、浮遊感に包まれて。
一瞬、視界の端で見たそれは真っ黒な低いソファで、でも、重心の崩れた身体は、訳も分からずそのまま落ちる。
背中を打ちつけ、臓器が揺れる。が、ふかふかのそれが大方の衝撃を吸収してくれたおかげで、痛みはない。
そのことに安心する間もなく、俺はさらに窮地に立たされたことを思い知る。
この状況でソファに倒れ込むなんて、今は自殺行為だ。
慌てて起き上がろうとするが、元々そんなに遠くない場所にいたあいつのほうが、行動は早かった。
「う、わっ、やめ、!」
目の前が陰る。
明かりが遮られ、覆い被さってきた相手の胸を押すが、体重をかけて頭の横に縫いつけられてしまい、腹の上に容赦なく座られる。
頭で警鐘が鳴り響く。
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