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決意
「テツヤさん、小動物みたい」
「……っばか言うな」
「だってほんとなんだもん。俺の下でぷるぷる怯えてる。何がそんなに恐いの?」
「……」
「それも、言えないんだね……」
ふう、と小さく息を漏らしたやつは、まるで溜まった熱や不満を吐き出しているようだった。
今まで、本当は何度も言われていた。
『ちゃんと付き合おう』って。『好きなんだよ』って。
でも、俺は幾度もその台詞を流し、誤魔化し、逃げて。
「キスもだめ?」
「っだ、だめだ、」
「ちょっと触るのも?」
「当たり前だろっ」
「……ケチ」
「うるせぇ」
こいつが俺のものになるのなら、それは喜ばしいことだ。
だが、もし、手に入れたら、そうしたら、その先は……?
俺は、簡単には割りきれない。
たとえ仕事であっても、知らない赤の他人がやつに触れることを、俺はこの先、我慢出来る自信がない。
今の職業を楽しんでいるやつに、そんなくだらない理由で仕事を辞めてほしいなんて。
……死んでも言いたくない。
そこまで首を突っ込めるような立場でないことも、『言うべきことではない』のも、重々承知している。だから、
「……分かった。今日は諦める、から、泣かないで」
「は……、泣いてねぇよ」
「泣いてるように見えるよ、俺には」
──目には見えないけどさ。
怒るわけでも、責めるわけでもなく。
そう言った声が優しすぎて、俺を気遣う笑顔が、こいつにしては下手くそで。
ほんとに、泣きそうになる。
すき、だ。
俺だって、すごい好き。
だから俺は、好きだからこそ、なおさら。
このままあえて、口出し出来ない立ち位置であり続けようと、もう決めたのだ。
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