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1 一ノ瀬浩司という男

一ノ瀬 浩司(イチノセ ヒロシ)40歳。 40歳にしてーー銀行ーー支店の支店長を任される凄腕の持ち主。 180cmという身長に、大人の色気をたっぷりと含んだ男前なその顔は、女性社員のみならず、お客様までをも魅了する。 なのになぜかバツイチで、ゲイだというもっぱらの噂だ。 元妻と結婚したのも、親が世間体を気にしてのカモフラージュに過ぎなかったとか? 欲しい物はなんでも手に入れるところがあるものの、それを咎めるやつは誰もいなくて、全てが一ノ瀬支店長中心に回っていると言っても過言ではない。 『鈴木。』 『なんでしょう?』 『まだ仕事終わらんのか?』 『まだですね…というか支店長、先に帰っていただいても…』 『いや、待ってる。』 『どうしてですか…あと一時間はかかりますけど。』 『別にかまわない。』 そう言いながら支店長はパソコンに目をやった。 はぁ… なんなんだよ。 ここ最近残業続きでヘトヘトな上に、こうやっていつも支店長が俺を待っている。 なんで? そう思うけど、その理由は聞けなくて俺は仕事に全うする。 いつも帰りは待ってくれるけど、戸締りが終わると「お疲れ。」と言って帰っていく支店長。 何がしたいんだか… あと、これを片付ければ… 終わりが見えてきた仕事に「よし!!」と気合を入れてラストスパートをかける。 明日はやっと休みだ。 これが終わったら久しぶりに酒でも飲んで帰るかな?なんて、浮かれながら片付けを終えた。 『支店長!!終わりました。』 『よし、帰ろうか。』 カバンを持ち、立ち上がる支店長。 『いつもすみません。』 いや、待っててほしいなんて頼んでないんだけどな… なんていう悪態を心の中でつきながら支店長が戸締りをするのを待つ。 『では、お疲れさまでした!!』 頭を下げ帰ろうとした俺を支店長が呼び止めた。 『鈴木。』 『なんでしょうか?』 『一杯付き合え。』 『えっ?』 『何か予定があるのか?』 『いや…一人で飲もうかと…』 『だったらちょうどいいじゃないか。奢るから。』 「奢る」というその言葉に弱い俺は、「喜んで…」という言葉と共に支店長の後に続いた。

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