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『ここでいいか?』
そう言われて連れて来られたのは、小洒落たBAR。
俺がいつも行っている居酒屋とは全然違う、大人の雰囲気が漂う店だ。
さすが…
なんて思いながら後に続く。
『いらっしゃいませ。』
グラスを拭きながら落ち着いた声で言うマスターは、俺がマンガなどを見てイメージしていた通りのBARのマスターだった。
『いつもの。』
そう言いながら支店長がカウンター席に座る。
うわ…かっけぇ…
まさに大人の男って感じだ。
そして、高身長、男前ときた。
ほっとく女性はいないだろうな…なんて。
俺も40になったらこんなに大人の色気が漂うのだろうか。
『鈴木は何飲む?』
『俺は…ジントニックで。』
マスターにそう言うと、無言で頷き酒を作り始めた。
『お前、彼氏はいるのか?』
いきなりの質問に驚いた。
か…彼氏?
『彼氏…ですか?彼女の間違いじゃ…?』
『いや、彼氏。』
『いませんけど…』
『じゃぁ彼女は?』
『それも…いません。』
『男に興味は?』
『あ…ありません。』
何言ってんだこの人?
彼氏はいるか?男に興味はあるか?
って…
俺はノーマルなんですけど…
『男に興味持ってみたいと思わないか?』
『はぁ?』
『俺が男を教えてやろうか?』
『じょ…冗談やめてくださいよ…』
一ノ瀬支店長がゲイだという噂は本当だったということだろうか?
『冗談じゃない。本気だ。』
『いや…そういう趣味はないので…』
『男同士はな、一度ハマると抜け出せないんだ。』
うわ…なにそれ…
怖すぎんだろ。
『け…結構です…』
『まぁ、いい。そのうちまた興味を持った時は声をかけてくれ。俺はお前をすぐにでもこっちの世界に引っ張りたいんだ。』
怖ぇー。
目が怖い…
獲物を狙ってます的な目。
でもそれがすごくセクシーだ…
なんて死んでも思わないぞ!!!
『いや、そっちには行きません。』
『じゃぁこっちに興味が出るようにお前を誘うことにするよ。』
『は、はぁ?』
『鈴木、お前を虜にしてやる。』
なんじゃそりゃ。
だけど、一ノ瀬支店長にかかればそんな言葉も寒いセリフには聞こえず、すごくいやらしい言葉に聞こえる。
恐ろしき一ノ瀬マジック。
『今日は気にせず飲め。手は出さない。でも、休み明けからは覚悟しておけよ。』
そう言われ背筋がゾクリとした。
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