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『お先です。』
『お疲れさまでした。』
何人もの人達が帰って行く。
それを横目で見ながら自分の机の上を見て溜息をついた。
昼間は窓口で接客をしている分、自分のデスクワークは後回しになるのだ。
なのに後方担当と同じぐらいの量の仕事を任されちゃたまったもんじゃないよな。と心の中でボヤく。
今日のお客様は休み明けということもあってか、かなり多かった。
その分この夜に回ってくる仕事の量がハンパないんだけど…
『鈴木、なんか手伝う?』
二間さんが俺の後ろから叫んだ。
『あ…ありがとうございます。大丈夫です。なんとか片付きそうなんで。』
後ろを振り返り言う。
『そっか…頑張って。』
なんて優しい先輩なんだ。
イケメンだし、仕事できるし、最高だよな。
だけど、俺はノーマルだから一切そういう気持ちにはならないわけで…
この前のBARでの支店長の言葉を思い出す。
「男同士はな、一度ハマると抜け出せないんだ。」
それ、どういう意味?
好きになりすぎる…とか?
いや、違うな。
ハマるって何が?
って、この時点でちょっと興味を持ち始めている自分に焦る。
いや、元々そんな気なんてないし、なんとも思ってなかったんだけど、直接「男に興味は?」なんて聞かれたから変に意識してしまって…
いやいや、ないから。
絶対ないから。
もう一度後ろを振り返ると、机に向かって一生懸命書き物をする二間さんの後ろに座っている支店長と目が合った。
ドキッとして焦って前を向く。
なんでこっち見てんだよ…
変なのに捕まってしまった。
なんとしてでも、支店長と二人きりにはならないぞ!!と意気込んで仕事に全うする。
早く終わらせなければ!!
と、必死に仕事を進めた。
『お先に失礼します。』
なに!?
後ろを振り返ると二間さんがカバンを持って立ち上がっていた。
えっ?帰るんですか?
そんな眼差しで見つめる俺に気付いたのか、近寄ってくる。
『まだ終わんねぇの?』
『は…はい。』
『もしかして支店長と二人きりが気まずいとか?』
二間さんが俺の耳元に口を寄せ、小声で言う。
その通り!!と、言わんばかりの目で訴えながら大きく頷いた。
『しゃぁねぇな…』
二間さんはそういうと、カバンを置いた。
『鈴木、それじゃいつまで経っても帰れないだろ。手伝うよ。』
と、大きな声で叫び、俺の隣に腰掛けた。
『二間、お前帰るんじゃないのか?』
支店長の声が響く。
『いや、鈴木の残ってる仕事の量がハンパじゃないんで、少し手伝います。』
二間さんは、後ろを振り返りながらそう言うと、前に向き直りペロッと舌を出した。
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