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『鈴木。今日も残業?』 『はい…』 二間さんに聞かれ、溜息交じりに返事をする。 この前の一件から支店長だけではなく、二間さんまでをも警戒しないといけなくなり、残業がどっと疲れる。 『あのさ、俺のことは気にすんなよ?』 『えっ?』 『あからさまに俺のこと嫌だって顔に出てる。』 『そんなことは…』 『支店長じゃないけどさ、俺も無理矢理は好きじゃない。ゆっくりでいいから俺のことも考えてくれればな…と思ってるだけだから。』 『は…はい。』 なぜバレた?と自分の表情筋に叱咤する。 ダメだな…意識しまくっている自分がいる。 決して二間さんが嫌とかそんなわけではなくて、色々と頭で考えてしまっている自分が嫌なわけで… いつものごとく、支店長と二間さんと俺、三人しかいない夜更けの店舗内は重い空気に包まれている。 ブブブと机の上で携帯が震えた。 三好? 三好からのメールに首を傾げながらメールBOXを開いた。 《残業お疲れ様です。支店長や二間さんに襲われてませんか?(笑)よかったら今日もラーメン行きませんか?今日こそは俺がこの前のお礼で奢ります。》 襲われてませんか?って… 少し笑ってしまった。 三好は、支店長と二間さんが俺のことを好いていることを知っているが、この二人はきっと三好が俺に告白したことは知らない。 なんだか三好と二人だけの秘密のようで笑ける。 三好の奢りかぁ… 本当に後輩に奢らせる趣味はなくて、乗るには乗れない誘いなんだけど、なんだか三好とメシに行きたくてOKの返事をした。 『あの…俺、あと30分ぐらいかかりますので、先に帰っていただいても…』 自席から振り返りながら二人に向けて言う。 『『いや、待ってる。』』 二人の返事がかぶり、俺は笑いそうになるが、二人はすごく険悪なムードで空気が重い。 『二間、お前鈴木のこと好きなのか?』 『はい。』 『そうか…』 何このやり取り… お願いだから俺がいないところでしてくれよ… 二人の話を聞こえないフリしながら仕事を進める。 『鈴木。』 支店長に呼ばれ、ビクリとする。 『な…なんでしょうか?』 『お前、今日はどっちと帰る?』 『は?』 『お前が選べ。』 『お前が選べって…今日は他に予定がありますので…』 『なんの?』 『なんのって…メシに…』 『誰と?』 『誰って…と、友達ですよ!!』 って、親父か!! なぜここまで根掘り葉掘り聞かれなきゃならんのか。 『ほう…友達ね。』 『なんですか!?』 『どんどんこっちの世界に足を踏み入れてるんじゃないか?楽しみにしてるよ。』 それだけ言って支店長が立ち上がると、カバンを持って帰ってしまった。 意味深な発言にドキリとしてしまった。 すべてがバレているようで怖い。 いや、きっと三好のことはバレてないと思う…って、ちょっと待て。 三好と付き合ってないし!!! でも正直言って、支店長や二間さんに比べて三好に好きだと言われたときの方が受け入れてしまいそうだった。 なんだろう?取っ付きやすいからかな? 懐っこい三好を可愛いと思うのは確かで、でもそれはペット的な意味で…と自分の中で解釈する。 『鈴木。俺も今日は帰るわ。』 『お、お疲れさまです!!』 あっという間に一人ぼっちになり、不思議な気持ちになった。 なんだろう? 求められれば求められるほど怖くて、警戒して… だけど、こんな風にあっさり一人にされると寂しいような… 俺、完全におかしくなってる。 頭を振って変な考えを吹き飛ばし、仕事に集中した。

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