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『すみません、待ちました?』 今日は四谷さんとの飲み。 待ち合わせの駅に着くと、すでに四谷さんがいた。 『ちょっと…敬語やめろよ。今、プライベート。』 『わかった…』 なんだか普段敬語で話している人間と急にタメ口で話すのは慣れなくて、緊張する。 『よし、行くか。』 『ってか、四谷さん酒飲めんの?』 『ブー。』 『なに?』 『四谷さんじゃねぇだろ。』 『は?』 『昔みたいに呼べよ。健太郎って。』 『あぁ…はいはい。』 『俺、酒飲めるよ。結構強いかも。』 『マジ?普段なに飲むの?』 『色々飲むかな〜?場所にもよるし。』 『場所?』 『BARとか居酒屋とか…』 『なるほどね。』 色々話しながら健太郎の後に続く。 なんでも店は予約してくれてあるようで、今日はすべて健太郎任せだ。 『ここ。』 着いたところはイタメシ屋で、雰囲気もよさそうな所だった。 『こんなとこあったんだ?』 『最近できたんだって。俺も初めて来た。』 『あ…そうなの?なんかよさそう。』 二人で話しながら店内へと入る。 『なに食う?適当に頼むか?』 メニューをペラペラと捲りながら健太郎が言う。 『いいよ。』 『飲み物はとりあえずワインでいい?』 『おっ!!いいねぇ。』 店員に注文し、ワインがきた時点で乾杯をした。 『カンパーイ。』 『って、何に乾杯?』 『再会?』 『いや、再会ってそれは二年前にしてんじゃん。』 すかさず俺が突っ込む。 俺がーー銀行に入社して3年目の4月。 いつもくる宅配便屋の人が辞めるからと言って、代わりに担当になったのが健太郎だ。 最初こそわからなかったものの、すぐに思い出したその顔は、高校時代よりも格段と男前になっていて驚いた。 元カノの弟というだけで距離を置いてしまったことに結構後悔していた分、再会できたのはすごく嬉しかったが、そんなにプライベートな話はできなかった。 なのになぜだか健太郎が荷物を運んでくるのは俺の窓口で、隣の窓口の女性社員がいつもヤキモチを妬いている。 『そうだ!!お前、俺の窓口にばっか荷物持ってくんのやめろよ!!』 『なんで?』 『隣の窓口の人、お前に絶対気あるって!!』 『気あるって…あの人いくつ?』 『えっと…32?』 『ダメ。俺年上無理。』 『えー、そうなの?年上いいじゃん。』 『お前年上好きなの?』 『いや、別にそんなことないけどさぁ…』 なんていう他愛のない会話が続く。 『あのさ…俺お前に…』 『あっ!!ごめん!!電話だ…』 健太郎が何か言おうとしたところで俺の携帯が震えた。 画面を見ると見覚えのない番号だった。 『出ていいよ?』 『ん…ごめん。じゃぁちょっと…』 そう言って、俺は外に出た。

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