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待ち合わせの駅に向かう足取りは重く、どんどんと歩くスピードが遅くなる。 五反田様のことは嫌いではないが、やはりお客様とご飯に行くということが俺の足取りを重くする。 『鈴木君!!』 駅に近付くと先に着いていた五反田様に呼ばれた。 『遅くなりすみません。』 『ううん。俺も今来たとこ。』 『あの…やはりちょっと…』 今更ながらご飯の誘いを断ろうかと話を切り出す。 『だーかーら、客と銀行員ではなくて、五反田さんと鈴木君だってば。気軽に友達として接してよ。』 『は…ぃ。』 そう返事したものの… いやいや、それは無理な話だ。 ましてや年上で恐らく共通の話題などないだろう… どうしても仕事の話になるに決まっている。 『じゃぁ行こうか。』 『はい。』 五反田様に連れられ着いたのは大衆食堂だった。 『食堂…ですか?』 『あっ!!今、こんなとこか…と思ったでしょ?』 『いや…そんなことは…』 うん。実際は思った。 こんなとこか…というより、五反田様のイメージが… 見た目がチャラそうで、食堂というイメージではない。 ましてや社長なのだから、普段からすごい店に行っているのかな?と、勝手に想像していた。 『ここ、本当美味いから。』 そう言いながら五反田様がのれんをくぐった。 『いらっしゃい!!あっ、翔ちゃん!!おかえり。』 笑顔が優しい肝っ玉母ちゃん風な女将さんが迎えてくれた。 『ただいま!!』 『た…ただいま!?ここ、五反田様のご実家ですか?』 『違う違う!!ってか、様付け禁止!!』 笑いながら五反田さんが言う。 『俺ね、小さい頃に両親事故で亡くして、いつもここでご飯食べさせてもらってたの。だからここの女将さんは俺の母ちゃんみたいな感じで、いつもおかえりって言ってくれんだよ。』 『なるほど…』 五反田さんは結構な苦労人のようだ。 通りで、見た目と反してしっかりしているわけだ…と、勝手に一人で納得する。 社長という位置付けから、恐れ多くて勝手に一線を引いていたが、なんだかこれを聞き親近感が湧いた。 『翔ちゃんはいつものでいい?お連れさんは何にする?』 『うん。俺はいつもの。』 『いつものってなんですか?』 『ん?ホルモン定食。』 『うわ…美味そうですね…』 『鈴木君も一緒のにする?』 『はい!!』 『はいよ!!お連れさん、鈴木君って言うの?翔ちゃん見た目こんなだけど、しっかりしてていい子だから仲良くしてあげてね!!』 そう言われ、俺は頷いた。 『見た目こんなってなんだよ…なぁ?』 笑いながら言う五反田さんがおもしろい。 確かに女将さんが言うのもわかる。 社長にはそぐわない服装。 うーん、なんていうんだろ? ホスト的な? 髪型も金色に近い茶髪で、ロン毛とまでは行かないが、結構な長さだ。 それをハーフアップにしていて、いかにもチャラそう… 最初、銀行に融資を頼みに来た時もヤバそうな人だなぁ…と思ったことを思い出して笑ってしまった。 『あっ!!鈴木君笑った!!なんだよみんなして…』 子供のようにプゥーと膨れっ面になる五反田さんがなんだか可愛い。 こうやって話してみないとわからないこともあるものだなぁ…としみじみ思う。 『鈴木君のさぁ、趣味って何!?』 『趣味…ですか…。なんだろう?』 『休みの日とか何してんの?』 『うーん。漫画…読むとか?ですかね。』 『漫画読むの!?俺も漫画好き!!』 『えっ!?そうなんですか!?何読まれるんですか!?』 『最近は…漢☆かな?』 『えー!!それ、俺も大好きなんですけど!!!』 漢☆は、一人の男が真の漢(おとこ)を目指して、ひたすら試練に向かって突き進むという漫画だ。 『マジ!?漢☆友達!!!めっちゃ嬉しいんだけど!!!』 思った以上に五反田さんと話すのは楽しくて、ワイワイと漫画の話で盛り上がった。

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