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第47話

「女の子なんだ、私の好きな人。」 「え…。」 「あっ、ごめんね!驚くよね、急にこんなこと言われたら…ッ! でも、1人で抱え込むの辛くなってきちゃって…。」 「あっ、い、いえ!そんな事ないですよ!俺だって男と付き合ってるし、番だし!別に気にすることじゃないですよ!」 ……意外だった。 千奈美さんは普通に男の人と付き合って結婚してそうなイメージだったから。 そんな千奈美さんだったからこそきっと、今まで辛かったんだろう。 俺以外には言えず、1人で抱え込んで、1人で悩んで苦しんで。 どんな思いで毎日、笑顔を作っていたんだろう。 「ごめんね、急にこんなびっくりすること言っちゃって。でも、本当なの。 しかも、お店の常連さん。桐島 桜(キリシマ サクラ)さんっているでしょ?その子。」 あぁ、いたな、確か。 多分、20代前半くらいで、俺と同い年か少し下くらいの…。 でも、千奈美さんが28だから結構離れてるなぁ…。 「千奈美さんはどうしてその人を好きになったんですか?」 できる女の千奈美さんが、異性でもなく、なぜ同性に、しかも年下の子に惹かれたのか、とても気になった。 「うん…。私もよくわかんない。でも、気付いたらこの人のこと好きだなって思ってて、目で追いかけてた。髪を切り終わった後に言ってくれる「ありがとう」とか「やっぱりお上手ですね」とか。そんな単純で素直な言葉に私は惹かれたんだと思う。」 …まぁ、納得した。 千奈美さんは素直な子が元々好きみたいだし、キュンと来たのがたまたまその子だったってだけだろう。 しかし、女ってだけで険しい道なのに、相手がβなら茨の道になるだろうなぁ。 「でも、ほら。やっぱり相手も女の子じゃない。だから諦めてたの。そしたら、前にね。髪をカットしてる時言われたの。「実は私、βじゃなくてΩなんです」って。だから諦めつかなくなっちゃって……。」 「えっ、Ωだったんですか!? じゃあ、チャンスあるじゃないですか、うなじに噛み跡ありました?」 噛み跡があれば番持ちだ。どうにもできない。 でも、こんな弱ってる千奈美さんを見たら、応援するしかなかった。 「それがね、無かったの、噛み跡。私…、頑張ってみても、いい、のかなぁ…?」 ついにポロポロ泣き出してしまった千奈美さん。 恋を恋と認識した方が悪い。きっとそういう理屈なんだろう。 「いいじゃないですか。当たって砕けろですよ、千奈美さん。俺の時は散々励ましてもらったんで、今日はパーっと飲んで気合い入れましょ!俺も応援しますから。」 泣いている千奈美さんを元気付けるように、ビールのジョッキを片手で持ちつつ、俺は笑顔でこう言った。 「〜〜〜〜〜〜ッ!! ありがどゔぅぅ…。真琴くん、お前は本当にいい子だねぇ…、店長泣いちゃうよぉぉぉ…。」 泣いちゃうよと言いつつ、もう号泣している千奈美さん。 こんなに素直でかっこいい千奈美さんには、いい結果が訪れることを祈った。

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