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第56話
「ねぇ、真琴まだ起きてる?」
俺が寝室に入ってすぐ、真咲が入ってきた。
いつもなら、起きてるかなんて確認しないでベッドに入ったらサッサと寝るくせに。
俺は静かに寝た振りをした。
「真琴…寝たのか?」
「…………。」
なぜ寝た振りをしようとしたのか、自分でもよくわからない。
ただ、何かを期待しての行為だった。
「ごめん、来るのがちょっと遅かったな…。」
「…………。」
「真琴、本当にごめん。俺、やっぱりダメな番だ。いつかちゃんと話すから。全て…。一つの偽りもない俺で真琴に会いに行くから…。」
頭をスルッと撫でられ、額にキスを落とされる。
そして、ギシ、と床が軋む音がした。
真咲が、何処か遠くへ行く気がして、我慢ならなくて声を出した。
「真咲…ッ、どこいくの……?」
「真琴…!? 起きてたのか。」
「うん、ごめん。起きるタイミング無くしちゃって。」
驚きの色を隠せないという表情を浮かべる真咲。
やはり、聞いてはいけない事を聞いてしまったのか。
「ねぇ、真咲……、どこか、行くの…?」
立ち上がったままの真咲を不安げな表情で見つめる。
「うん、ごめん。用事ができた。」
嫌だ、行かせたくない。
行って欲しくない。
「俺が行かないでって言ったら…?」
こんな試すような事を言って、後悔するのは自分だとわかっているくせに。
「ごめん。どうしても、行かなくちゃならないんだ。」
そして、真咲は静かに俺たちの寝室から出ていった。
幸せの絶頂から、辛い現実に引き戻された瞬間だった。
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