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第58話
俺を止めようとするその手を…その瞳を、振り払うのにどれだけの勇気がいるか。
「行かないで」と縋る君を置いて去るのに、どれだけの悲しみと痛みを伴うだろうか。
辛そうにしている君に真実を言えない俺は、なんて酷いやつなんだろう。
なんて、臆病なんだろう。
真琴を置いて家を出てから、歩いて数分。
辛い現実と向き合う時間が来た。
「俺は…、まだ────。」
きっとこのまま真琴のそばに居ても真琴を傷付けるだけだろう。悲しませる。ただ、それだけだろう。
だけど、君を振り払えない。
こんなにも愛しているから。
本当は真琴の為に、別れるのが最善だろう。
でも、それが出来ないのは俺がまだまだ弱いから。
「こんなにも好きになるなんて思わなかったな…。」
ふぅ、とため息を吐く。
……寒い…。こんな冬の寒い日は君と出会った頃を思い出すよ。
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あれはまだ俺と真琴が19歳の大学2年生だった頃。
あの時、君と出会えたことが奇跡だった。
もし、あの時、君と出会えていなかったら、俺はどんな人生を送っていただろう。
……真琴と出会った頃、か…。
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