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第60話
「あの…ッ!すみません。本当はトイレ探してたんじゃないんです。」
「え…?」
俺の後ろで歩みを止める男。
どういう意味だ…?
「あ、連れ出したのに変な意味はなくて、ただ、なんだか顔色悪いなぁって思って。……余計な事、しちゃいましたか…?」
後ろを振り返ると心配そうな顔をする男。
よく見てるな…、そう思った。
「あぁ、香水の香りが少し苦手で…。ありがとう、助かったよ。」
俺がこう言うと、男はふっと表情を緩めた。
本当に迷惑な事をしてしまったのではないかと心配していたらしい。
「よかった。それじゃ、俺はこれで…。」
「待って。」
一礼して去ろうとする男を反射的に引き止める。
「名前、教えてくれないかな。」
俺がこんなこと言うなんて、らしくない。
でも、今聞いとかないと2度と会えない気がした。
「俺、夜白 真琴って言います!あなたの名前も良ければ教えてもらえませんか?」
夜白、真琴……。
綺麗に笑って見せた彼は、とても男には見えないほど美しかった。
「俺は町田 真咲。よかったらケータイのトークアプリのID教えてくれないか?今度お礼もしたいし。」
「え…っ、」
驚いた顔を見せる夜白くん。
なにかダメなことでも言ったか?
「なにか悪い事でも言ってしまったかな。」
少し笑顔を作りつつ、問いかける。
「やっ、なんか真咲さんみたいな人でも、他人にそんなの聞いてくれるんだなって思って…。そんなの興味無さそうなのに…。しかもお礼なんて…、俺、あんまりいい事してないですよ?」
クスクスと笑いながら聞いてくる夜白くん。
だが、あの香水地獄から救ってくれたのだから、感謝してもしきれない程だ。
「とにかくお礼がしたい。俺、借りは作りたくないんだ。」
ふっと笑って分かりました、と携帯を差し出してきた夜白くん。
だが、次の瞬間、何かが香った。
今まで何度か嗅いだことのある匂い。
これは……。
ふと、気になり夜白くんの顔を覗くと、頬が赤く染まっていた。が、次の瞬間青ざめた表情をした。
まさか。
「夜白くん…君ってまさか「ごめんなさい!俺帰りますね!」」
話している途中で声を重ねてこう言われる。
やっぱり、『そう』なのか?
「オメガ…?」
彼の表情が、明らかに強ばった。
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