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第7話

 室内に淫靡な演奏が響き、浅香は深く眉を寄せる。岩城の指を舐めしゃぶる唇から溢れた唾液が服に染みを作る。 「ふ…っう、ン…ぁぁっ」  限界が近いらしかった。腰がぎこちなくソファを軋ませた。刺激を送られるたびに浅香の蕩けた舌が、岩城の指を同じように扱く。  ちゅぱ、ちゅるる…ぢゅるっ、ぴちゅ… 「ふ、ぅんぁ…あっ…んむ、」  膝に力が入り、腰が上がっていく。吐精間近の茎を握り締め、動きが止まる。 「ぁ…あ…」  激しい呼吸の中に惜しむような溜息が混じった。 「イきたいならおねだりしてごらん」  猫撫で声で言った。耳朶に口付ける。指をちゅうちゅうと吸われ、たまらない情欲に下腹部が暴れ出しそうだった。すぐさまここで自らを慰めたかった。根元を締め、動く気配のない岩城の手から逃げ出すつもりか浅香は下肢をくねらせる。 「…っぅ、ん、」  ぱさついた毛が鳴った。嫌だ嫌だと(かぶり)を振る。唾液の溢れた内膜に解放され、そろそろ指もふやけていたがぬとついた舌を撫でて遊ぶ。 「イきたくないのかな」  指に擦り付けようと腰を捩る姿に息苦しいまでの可愛いらしさを感じ、岩城は自我を忘れそうになる。喜びの苦しみに脳脳味噌が沸騰しかねない。 「イ、きた…ぃ、ぅんぁッあ、」  一度だけ扱いた。面白いほどに身をのたうたせ、高く喘ぐ。 「イ、かせ…って、ぁッア、イき、た…ぁん、」  ゆっくりと短い快感を送る。だが果てるには足らない。 「かわいい…」  すでに合格だった。だが何を要求していたのか自身でも忘れていた。 「イく、あっ、あっぅん、」  緩まった(いましめ)の間へ淫欲の茎を通そうと震える様が吐きそうになるほどの情を炙る。 「俺のこと、好き?」  返答のたった一言が夜間独り愉しむ妄想に加わるはずだった。 「…………っぁ、!」  返事が遅いため、膨れた器官を潰すほど締めた。濡れた唇からとろとろと涎が滴る。そのまま強い力でゆっくり先端まで指の輪を滑らせた。 「ぁ、ぁうっうっぅ、」 「俺のこと好きだろう?」 「ぅ…ぐ、っくぅんンっ」  虐待された仔犬のような高い声が嗜虐心と保護欲を煽り、訳の分からない淫情に火が点いてしまう。 「好きだろう?」  逃げ惑う舌を捉え、体温とざらついた質感を唾液の中で愉しんだ。 「他に好きな人がいるのか。恋人は俺だぞ?」  不本意に、鼻にかかった声が出た。(すもも)に似た先端部が許しを乞うみたいに露を浮かべて泣いていた。急所を押さえ込まれているせいか浅香の手は力無く岩城の手に添えられている。ビクビク喉を痙攣らせ、イきたい、イく、と呟いている。 「俺のこと好きじゃないのに感じるのか?」 「い、や…っンあっ、あっあっ、イく、イく、だめ、」  壊したいわけではなかった。声が聞きたい。異様な目付きになった浅香の、爆ぜそうな茎へ手淫を再開する。 「や、めェ…」  手を剥がそうとした。喋るたびに柔らかな口腔に挟まれる。 「かわいい…夕凪…すごくかわいい」  唾液まみれでふやけた指を抜いて彼の頬をなぞり、口付けた。蕩けた唇を夢中で吸う。浅香の甘さにくらくらした。 「ふっ、ぅんンンぁっは、あっ、あっあっあっあ!」  彼は悶えた。ソファがうるさかった。抱き締めた腕の中で小刻みに震えて射精する。だが手は止まらなかった。敏感になっている陰茎を擦り上げ続ける。舌を噛まれ、深い口吻が終わりを告げた。彼の顎へ混じって糸になった唾液を弛ませた。しかしそれを気にしている余裕は浅香にはなかった。 「い、や…やめ、…!あひぃっ」  陰茎は残像で覆われた。先端部を強めに摩擦すると浅香は悲鳴を上げて岩城にしがみつく。 「あっァァァっ、ひ、ぁっひ、」  ひっきりなしに叫び、よく振った炭酸飲料を開けた時のように陰茎から体液が飛び散った。パーカーの色を変えていく短い雨。 「ぁぃいっぃあっァッアっ!」 「かわいい…かわいいよ…」  噴き出る体液までも愛しかった。そういう玩具のように浅香の器官を嬲る。快感を超越した痛苦にもがき、慟哭しても、岩城は苛烈な手淫を止めることはできなかった。 「あ…あ、ァァ」  びくびく跳ねる肉体を抱く。胸に留まった灼熱に頭痛がはじまっていた。  募る想いは日に日にエスカレートしていった。勤務だけは完璧にこなしたが、ほぼ生活は浅香の家が中心になり、得体の知れない中年男を飼いながら浅香と身体を重ねた。ほとんどが恋人に尽くすようなセックスで、岩城もまた相手に何かさせようという気は起きなかった。掌を返して従順な態度を示す愛らしい仔犬は岩城の精を果たさせ、苛烈なまでの愛欲を燃え上がらせる一方で毎夜毎夜、言葉や身体を求めずにはいられなかった。喫茶アネモネで(やつ)れたことを指摘されたが心情はまったく逆なくらいだった。見知らぬ男が岩城の訪問しない時間に現れるまでは。  男は浅香と同年代くらいに思えた。黒い髪が跳ねたずぼらな雰囲気のある気怠げな若者で、不似合いなケーキな箱を持っていた。陽気な浅香と仲が良いようには思えなかった。その若者が引戸を叩くだけで浅香は素早く中へ通した。来訪を待ち侘びているような感じが岩城の躯体(くたい)をまた淫らな希求とは異質に熱くした。友人がいるような素振りはまるでなかった。かといって孤独に陥っているというわけでもなく彼は自ら独りを選んでいる。だというのにあの男は何者なのだろう。今すぐ浅香の家に押し掛けたいところだったがあの男の動向を探る必要があった。与り知らぬところで恋人が、同年代のそこそこ眉目好(みめよ)い不審な男と会っているなど到底許せることではなかった。猛烈な憎悪が見ず知らずの若者(どぶねずみ)へ向けて大きく膨らむ。一体家で何をしているのだろう。浅香を手籠めにしていたら。日に日に感じやすくなっている浅香が抵抗など出来るだろうか。あの色情魔(おとこ)に彼が泣かされてはいまいかと、大半は怒りが、残りは興奮が占めている胸を掻き乱された。汗ばむ。過激になっていく妄想と、愉悦へ変換されていく不安に股間が張り詰めていく。大きく息を吐き、落ち着こうと躍起になった。狂乱するほど可愛い浅香の泣きじゃくる顔をあの色悪(おとこ)は今頃見ているのだろうか。そして一生、肴にする気なのだ。助けに行くか、行くまいか。何故か、助けに行かないという選択が消えないでいた。頭の中に、強姦した際の嬌態がこびりついている。しかし彼の負い目に付け入る真似をすれば懐いて擦り寄り、甘えては笑いかける日々がまた降り出しに戻りそうだった。知らないフリをする。それが一番だった。ここのところ彼の精神状態は安定していたのだから。あの不埒者(おとこ)が出たらすぐに迎えに行くことにした。  岩城の予想に反し、色魔(やつ)は随分と長いこと浅香の家に留まっていた。もうすぐで岩城が何事もなかったように訪ねる時間だった。今日は代理出勤で早く帰ることが出来たのだった。浅香には告げていない。磨りガラスがゴロゴロと小気味良く軋んで開いた。出てきた黒髪の(ろくでなし)へ浅香はにこにこと笑っていた。華やかで、岩城に見せる眠気に満ちた虚ろなものとは違うものだった。 『長居して悪かった。オムライス美味かったわ、ごちそうさん』  見た目に似合わず溌剌とした調子で若い男は振り返りながら歩き、浅香へ手を振っていた。 『うん、リョウちゃんもまた来てよ!ケーキさんきゅな』  軽やかな語調や、弾むような声音を岩城は聞いたことがなかった。現在の関係になる前に喫茶店で従業員と客だった時にその片鱗を見た程度だった。間男だけに向いていた陰気な欲が浅香を前に滾った。去っていく好色漢(おとこ)は来訪時とは打って変わって颯爽として映った。手を出したに違いない、と確信した。浅香に家へ招かれ、淫欲に火を点さないほうがどうかしているのだ。息遣いが荒くなった。我が家と化している浅香家の玄関を開く。奥の台所に明かりが点いていた。不穏な音がする。金属の音だ。包丁を取り出す音だ。企みや構想が頭から吹き飛ぶ。 「夕凪」  有名スポーツブランドのロゴが淡くなっているのさえそういうデザインとしてしまえば頷ける明るいオレンジのフーデッドスウェットシャツに、真っ赤なキャラクターのエプロンを掛けた浅香が岩城へ身を翻した。 「岩泉さん…」  台所で洗い物をしようとしていたところらしかった。消え失せていた生活感がそこに広がっている。放っておけば死を望んでもがいていた病人の姿ではなく、岩城のもとを離れてもすっかり忘れて生きていけそうな健やかな青年がそこにいる。恐怖した。嫉妬心に炙られ、焦げては灰と化しそうだった。手が震えている。浅香は逃げるつもりだ。 「夕凪…」 「…ケーキがあるよ。食べような。岩元さんは甘いの好き?」  怯えた目を誤魔化せてはいなかった。(にじ)り寄ればびくりと跳ねた肩に、逃げたいという態度を見出してしまう。 「ケーキが?どうしてだ?ケーキ屋にでも行ったのか?こんな可愛い顔をして、1人で?」  すべらかな頬に掌を添えると、親指の腹で撫で上げた。 「友達が来たんだ…ついさっき。中学の親友で…色々あって少し地元(こっち)に戻ってきてて…」  浅香は俯きながら喋った。大差ない身長差では彼の顔は見えない。嘘ではない。本当にあの「友達」はケーキ屋の箱を持っていた。 「友達か…」  しかし岩城の中では治まりがつかなかった。見たことのない笑顔。聞いたことのない声色。口振りからして作ってもらったことのない手料理を食べさせてもらったらしいかった。何よりあの男の雰囲気が気に入らない。 「うん。今度紹介する…っぅン」  シンクに追い込み、唇を奪った。渡さない。あの男が友人なわけがない。浅香は友人と言い切った。だが岩城にはそれが信じられなかった。本当に友人だというのなら瓦解するのは時間の問題だった。互い口元が擦り切れるほど角度を変え、痺れるほどに舌を絡めた。膝の力の抜けた恋人の身体を支える。 「夕凪…したい」  口角に纏わりつく唾液を舐め上げる様を見せつける。とろんとした浅香の目は合意を訴えているもの同然だったが口にしてもらいたい。放さない。力強く抱き締めた。 「で、も…風呂、まだ…」 「いい。そのままの君を感じたい」  腕の中で恋人はたじろいでいた。疑心が破裂しそうだ。 「夕凪」 「う、ん…」  優しく呼べば彼は簡単に頷いた。風呂前はリビングで交わり、風呂の後はベッドで繋がる生活だった。リビングのテーブルにあの「友達」が持っていたケーキ屋の箱が置いてあった。気持ちが底冷えする。ソファに浅香を押し倒しながら、集中ができないでいた。すべてテーブルの上の異質な土産のせいだった。されるがまま、浅香は自ら裾を捲りあげ、カーゴパンツを下ろしていく。虚ろな瞳が天井を見上げていた。胸部と腹部、そして陰部を晒す淫らな姿に()てられる。疎らな陰毛は岩城にとって愛猫であり愛犬だった。体温に慣れさせてから口淫を始めた。甘えて頼るみたいに彼に触れる手に、彼の手が重ねられるのがたまらなく好きだった。だが今日は機嫌が悪かった。すべてテーブルの上にある物のせいだった。陰茎を唾液と内膜で刺激しながら頭では全く違うことを考え、かといって惰性の奉仕というわけでもなく、快楽に喘ぐ声が聞き流されていくのは極めて勿体ないことのように思われた。それがまた瀟洒(しょうしゃ)なケーキ屋の箱への憎しみを燃やした。もぞりとソファが軋んで赤みの差した浅香の潤んだ目も、岩城が睨んだケーキ屋の箱を見た。頭部を撃ち抜かれたみたいな心地がして、口淫を止め、口から完全な勃起の少し前といったふうな茎を出した。数をこなしただけあり要領を得ているらしく、浅香は蕩けた顔をしてソファの上に四つ這いになった。テーブルの上の紙箱に手を伸ばす。上品な感じのある白くマットな質感の箱を開けた。ムースのようになって金箔の浮かぶチョコレートケーキが2つ入っていた。 「岩水さん…?」  浅香は不思議そうに岩城を見た。微睡(まどろ)みかけている顔付きは黒髪の若い男に向けていたものとは違っていた。素手で美しく艶めくチョコレートケーキを鷲掴んだ。形は崩れる。岩城の指の間から無残に現れ、浅香の臀部へと塗り付けられた。仔犬は瞠目する。同情を寄せてしまうほどに悲愴を浮かべた。だが何も言いはせず、大きく白に照った瞳は固く閉ざされ瞼によって消えた。彼の尻、特に後孔の周辺はダークブラウンに汚れた。もうひとつのケーキも原型を留めずに塗りたくられる。尻の狭間を埋めるみたいだった。毎日のような営みに最初のような拒絶はない窄まりへも指ごと押し込んでいく。ムースがひくひくと動いた蕾へに纏わりつき、ぼろぼろと湿ったタルト生地がソファへ落ちる。浅香のくぐもった声が吐息に混じっていた。 「お漏らししたみたいだな」  彼は突然、目元を片手で覆った。ソファに口を寄せて。チョコレートの潰れた彼の引き締まった丘へ岩城は顔を寄せた。苦味の強い、だが甘みもしっかりとある、そのままケーキ屋で買うチョコレートケーキの味に変わりはなかった。 「いけない子だ。綺麗にしないと」  窄まりだけを避けるように2人分のチョコレートケーキで汚れ箇所を舐めていく。恋人の肌に触れた生地を仇みたいに齧って呑んだ。生地が大きく残っている狭間を両手で抱えて食べていく。浅香の腰部は戦慄いていた。掌で引き締まった輪郭を確かめ、宥める。 「泣いてるのか?恥ずかしい?こんなに漏らして…」  チョコレートケーキの残骸を舐め取り、露わになった肌へ舌の質感を覚え込ませる。 「うっ…うぅ…くッぅう、」  声を殺して咽び、浅香は首を振った。傷んだ毛先がソファの座面を叩いた。突沸した同情に胸が張り裂けるように痛み、その半分でこの憐憫に酔っていた。傍にいるのは自分なのだという事実に身が喜びに焼滅しかねない。 「恥ずかしがらなくていいんだよ、夕凪。俺はお前から離れないんだから」  放置されて萎みかけの茎が可憐に揺れた。 「放置されてつらいのか?」  甘ったれた声で問うて、牛の乳搾りのような手付きで彼の前を扱いた。 「あっあっあっ、あっ」  チョコレートケーキの付いた手で刺激する。あの男を踏み躙っているようで愉快だった。一度勃っていただけに勢いを取り戻すのは簡単だった。くちくちと先端から蜜が溢れ、掌のチョコレートを濡らした。ぼろぼろと生地の砂礫が落ちていく。 「あ、あァ、あ…」  嗚咽を堪える彼からチョコレートケーキに負けないほどの甘い声が抜ける。 「かわいいよ…」  かわいい、かわいいと譫言を繰り返し勿体ぶって浅香の汚れた後孔を舐め拭き取った。皺に入り込んだブラウンを焦らしながら綺麗にする。 「ぅッ、あっあっんぁ、」  ソファが軋んだ。恋人は執拗な舌先から逃げたがる。大きく括約筋が跳ねた。入り込んだチョコレートケーキが現れ、岩城の濡れた筋肉の塊が彼の御せなくなっている排泄孔を苛む。 「ぁあっぅ、あっ…」 「夕凪」  口を離せば、行かないで…とばかりに切なく蠢いた淡い色の箇所を燃えるような目で凝視してしまった。固くなり、視覚と聴覚だけで絶頂してしまいそうだったが愛しすぎて苦しいほどの相手が誘っている。前を出して、先端をまだチョコレートケーキを吐く静かな口に当てた。 「夕凪。いくぞ?」  べたついた掌が腿を這う。微かなチョコレートの匂いが浅香に重なり食欲とも色欲ともいえない衝動をそそった。息を止め、一気に腰を進ませる。 「んぁっ、くっゥんッ!」  仔犬は本当に仔犬になったみたいに鳴いた。そこは岩城を頬張り、咀嚼した。意識を失うほどの快感が恋人に包まれた屹立から駆け上った。広がる背中がしなった。座面に白濁が散る。 「イっちゃったのか?前も後ろもお漏らしして…悪い子だ」  接近した耳朶を柔らかく噛んだ。腕を取り、ピストンの幅を狭めて穿つ。 「あッあぁんっ!ァあっ」 「感じやすいな。気持ちいいか」 「きも、ち…ぃ…」  上体を抱き締め、胸を摩った。指に当たる肉粒に気付いていないフリをして掠っていく。荒く鼻から息を出して、されるがままに岩城の恋人は身を委ねた。肌をぶつかる音がリズミカルに居間へ響いた。開かれ放しのドアから四つ這いの全裸の中年が交合(まぐわ)いを覗いていた。 「あっァッあ、イく、イっちゃう…」 「前いじってないよ?」  あやすような声音で囁いた。耳元も弱いらしく腕の中でしなやかな肉体が強張った。 「ダ、メ…ッ、中や、だ…っやだ、やだやだッンぁぁ」  動きを止められなかった。恋人が前もいじらず内部で達しようとしている。彼の耳元で岩城もまた息を荒くした。 「イって?」 「いや、やだァぁあっあっぁん前、触っ、あっ」  唇の届く限り口付ける。そして覗き魔を冷たく睨んだ。 「だめ、ぁあッ」 「かわいい…中に出すよ」  びくんっと恋人の身体が大きく跳ね、電流を通されたのかと思うほど震えた。引き絞り、うねる内膜に岩城も美しい顔立ちに艶と苦悩を浮かべて達する。放精の都度、過敏になった茎を食い締められると逃げられない恐怖さえも感じた。 「中に出されるの、気持ちいいか?」 「あっあぁぁ赤ちゃん、デキちゃ…あっあっあっ」  彼は今までも腸内で射精するたび彼はぼんやりと口走っては、それに感じてびくびくと震えるのだった。今日もだった。絡みつく快感に煽られ、最後に強めく一突きする。悦楽とは違うらしき反射が精を出しきった岩城をくぽくぽと舐めしゃぶる。 「あ…ぁう、うっ…」  苛酷なまでの官能に浅香はぐったりして岩城に凭れかかった。 「好きだよ夕凪…愛してる。苦しいくらい」  恋人の父親にほくそ笑みながら岩城は何度も接吻した。轡を噛まされた中年男はドアから消えた。 「あ…あっ…」  口付けしながら彼を寝かしつける。 「明日ケーキ買ってくるよ。チーズケーキが美味しいお店を知っているんだ。他の奴が買ってきた物なんて、何が入っているか分からない。君を手籠めにしたかも知れないんだよ。そうしたら俺はどうしたらいい?俺が犯罪者になんてしまったら警察はきっと俺が出入りしていたこの家を調べるだろうな。そうなったらどうなる?夕凪…君の友達のためでもあるんだ。かわいい夕凪…みんなが君を犯そうとしてる。みんなが君に子種を植え付けたいんだ。夕凪…?」  ぱさついた髪を梳いた。風呂洗いと湯を沸かすのはまだ先だ。蒸しタオルで汚れた身体を拭く。深く寄った眉間の皺にキスした。血の乾いてひび割れた唇がふわふわと動いて、リョウちゃん、と呟いた。お仕置きという単語と、泣き叫んで許しを乞いながら性感に悶える様が脳裏を過ぎった。遊び終えた肉茎が再び勃ち上がってしまう。眠る恋人を暫くは視線で姦していたが、起きるまで彼の手と痴態を使って淫らな戯れに耽溺した。  喫茶店アネモネに馴染まない顔が現れた。初めて来た場所だという主張をしているも同然の視線が店内を窺っている。岩城が出ようとしたが、近くにいたキビキビした同期の女性店員が応対した。黒髪と気怠げな雰囲気は間違いなく、浅香を狙っていたあの不快害虫(おとこ)だった。彼がよく座っていた責任案内され、メニューを眺めている。近くを通りかかった静かめな後輩の女子を手招きして呼び、メニュー表を指しながらあれこれ聞いていた。中腰になった後輩と難しい顔でメニュー表を指で辿る男は似合っていた。浅香には吊り合わない。先走る空想に熱くなる。勤務時間にはそぐわない怒気を鎮めようと努める。戻ってきた後輩にそれとなく訊ねた。何かクレームでもあったのか、というニュアンスで柔らかく、遠回しに。後輩は首を振った。アレルギーだか激しい好き嫌いがあるという話らしかった。後輩を放すと、ふとあの男と目が合った。若い女が好みそうな顔立ちではあったが漂わせる空気感が陰気なせいか地味な印象があった。間抜けのように口をぽかんと開け、両目を見開き眉を上げる様が浅香を模倣したみたいな驚いた顔で、2人の関係をアピールされている気がしてならなかった。鎮めようとしていた努力がばかばかしくなった。しかしそれは岩城の曲解でしかない。一度恋人の周りをうろつく悪い虫の視界から外れ、厨房前のカウンターを覗いた。あの客の相手は自分がすると、言外に厄介な客であることを滲ませた。根暗っぽい男の目が届く場所へもう一度立つ。やはり辛気臭い男は唇を尖らせ、退屈しのぎと言わんばかりの顔で岩城を見ていた。
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