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第5話 始まり.4

あれから一週間がもうすぐ経つ。 未だに東藤は会いに来ない。 何なんだよ、本当に..。 「先生、書類ここ置いときますね。」 「あ、あぁ。ありがとう。」 いけない。 仕事中なのにぼうっとしてた。 「..先生。何かあったんです?珍しくぼうっとしてますよね?特に最近。」 そんなに上の空だったのか、看護師に心配される。 「いや..。..外科の東藤って知ってるか?」 「あぁ、東藤先生ですか?最近人気ですよね。何て言っても美形だし、笑顔が素敵だし。」 そうか..。東藤はそんな風に思われてるのか。 やはり、俺とは真反対な人物だ。 「先生、もしかして東藤先生と何かあったんですか?」 「あ、そんな訳では..。」 自分は何を聞いているのだろう。 これ以上言うと、何か誤解されそうな気がして、それから何も喋らなかった。 午前の診察が終わり、またいつものようにコーヒーカフェに行く。 自動ドアが空き、店内を軽く見渡しながらいつもの席に座ろうとした。 「あ..。」 「お。市川先生見っけ。どうやら噂は本当だったようですね。」 その席に先に座っていたのはあの東藤だった。 「あ、先生もどうぞ。」 東藤は隣のテーブルへ移動し、俺の席に近づける。 「..何でいるんだ。」 ボソッと呟いたつもりだったが、聞こえたらしい。 「そりゃあ、この前言ったように先生とまた話したかったからですよ。他の職員に聞いたら、いつもこの席でコーヒーを飲んでると聞いたものですから。」 「..」 誰だよ言った奴。 「あ、すぐそうやって睨むー。無意識でしょう?気をつけた方が良いですよ。」 「..うっさい。」 「あ、別に敬語求める気無いけど、一応俺の方が歳上だからね。」 「は?」 「一つだけだけど。」と、俺の飲んでいたコーヒーに口をつけた。 「おいっ..」 「あ。間違えました。すみません。」 また無意識で睨んでしまう。 やっぱり、こんな奴なんて気にするんじゃなかった..。 時哉さんとは全く違う。 「..」 「その顔。止めた方が良いですよ。」 「?」 すると、東藤はぐいっと俺の顎を掴み、自分の顔へ寄せた。 「男のこと、考えてる顔。艶っぽすぎて見てられない。」 「は、離せっ..。」 無理やり東藤を引き剥がす。 ..やっぱりこんな男、嫌いだ。

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