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第7話 始まり.6
「んで~?時 の話しして、大輔君また怒っちゃったの?」
「あ..、別に怒ってるんじゃないと思うけど..。」
「出た~。いっちゃんの鈍感癖。」
「俺、鈍感じゃない..。」
ロックグラスを片手に、俺の髪の毛をもう片方の手で弄っている目の前の男は、笠部だ。
笠部は俺の先輩でもあり、良き理解者でもあるため、週一のペースで一緒に呑みに行っている。
いつもは笠部から誘ってくるのだが、今日は色々と相談したいことがあったため俺から誘った。
「..大輔君も大変だねぇ。いっちゃん、いい加減気づいてあげたら?」
「は?何を。」
「..やっぱいーわ。それで?その年上の東藤、って奴とはどうなったの。」
「あ、何か連絡先は貰った..けど、まだ登録はしてない..。」
「えー!それじゃ東藤君かわいそーう。
連絡先くらい登録してやんなよ。だって今も東藤君、待ってるかもよ。いっちゃんから連絡来るの。」
「..」
「..何て。そんなこと言ったらいっちゃんファンに恨まれるか。やっぱり気づかなくていいよ。」
「?..何。」
「あはっ、もう忘れちゃったの。てか、いっちゃん呑みすぎじゃない?」
気がつけば、生ビールとウイスキーを2杯と冷酒も飲み干していた。
やば..頭いたい。気持ち悪い。
本当に呑みすぎたかも。
「いっちゃん、耳真っ赤になってるよ。まあ可愛いけどさー。」
「ぅん..何か顔熱い。」
「そうだねー。そりゃこんだけ呑みゃーなー。..いっちゃん、帰ろうか?」
「..かえる。」
「よし。おいで。おんぶしてってたげる。」
「それはいや。」
「ははっ。その手には乗らないか。じゃあせめて肩だけでも貸して?この状態で普通に歩けるとは思えないし。」
「それなら..いい。」
優しく微笑みながら頷き、そっと俺の肩に手をまわす笠部。
身を預け、瞼をうっすらと開けてふらつく足を必死に動かす俺。
そんな二人は、誰がどう見ても恋人同士のようにしか見えない。
「ん..。..あれ、俺の部屋..?」
ずきずきする頭を抱え、頑張って体を起こした。
窓の外を見ると、まだ薄暗い。服も昨日と同じ。
..あ、そうだ。
昨日は色々あったから、相談するために笠部さんを誘って一緒に呑んだんだった..。
取り合えず脱衣所に向かい、服も脱ぐ。
何気なく鏡を見た俺は、自分の鎖骨付近を見て絶句した。
何だ、これ。
赤く、少し歪な形をした痕。
キスマーク..?
思わず、急いでその痕を手で拭う。
取れないことは分かっていたのに。
「くそっ..俺、何かしたのか..?」
全く覚えがない。
女にでもつけられたのか。それとも..。
とにかく絆創膏をつけて、早く出勤しなきゃ..。
白衣を着て、ロッカーのドアを閉めた。
ふいに気配を感じて、後ろを見ようとする。
すると、
バンッと音がしたと思えば、俺の顔の真横に誰かの腕が通っていた。
「..は?」
今度こそ、後ろを見る。
「え、東藤..?」
そこには、いつもより目つきが鋭くなり、
俺を見つめている..いや、睨んでいる東藤がいた。
流石に焦る。
逃げ道も塞がれ、逃げられない。
これが所謂"壁ドン"なのだろうか..。
..いやいやいや。
そんなこと考えてる暇なんてない。
まだ無言で俺の目をじっと見ている東藤を見て、俺は取り合えず冷静に対応しようと心の中で落ち着く。
「..何の用だ。」
何か怒らせるようなことをしただろうか。
全く分からない。
「..何も、覚えてないのかよ。」
いつもと違い声のトーンが低く、何より敬語じゃなくなったことと、
見たことのない冷たい目線に恐怖を覚える。
「あ、え..。」
やばい。
完全に思考が停止した。
そんな俺を見て東藤は、今度は空いている方の手を俺の体へ伸ばす。
流石に抵抗しようとして、東藤を押し返そうとするが効き目はゼロ。
せっかく止めたYシャツの第一ボタンを外され、首もとも露になる。
「..この絆創膏..。」
まずい。
絆創膏の下は、キスマークだ。
「俺のつけたキスマーク..そんな嫌でした?」
は? 俺のつけた..?
「これっ、お前が..?!」
「そうですけど。」と完全に開き直る東藤。
「どうして..っ」
こんな痕までつけた東藤の心理か読めない。
「..随分とお盛んなようですね。男二人で堂々と抱き合うなんて。」
「は。..っっ?!」
その瞬間、口を塞がれる。
..東藤の唇で。
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