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4-なりきりバレンタインデー
某市内にある××公園。
木々や緑がたくさん生い茂るそこは、休日の昼は家族連れやカップルで賑わい、何せ広い園内なのでウォーキングに訪れる人間も多い。
しかし夜になればそこは。
いわゆるハッテン場と化す。
医療機器商社の営業部に勤務する和泉は夜中の十時前後、××公園を一人訪れた。
設置された外灯に時折照らされる、メタルフレームの眼鏡をかけた、澄んだ夜気の似合う怜悧に冴えた容貌。
複数の視線を感じながらも、和泉は、うろたえることなく芝生に連なる舗道を進む。
園内には来月に開花を控える桜の木も見受けられた。
和泉は、夜の闇に枝を張り巡らせる一際立派な桜下のベンチに座った。
待ち合わせではなく、今夜の相手を探しています、と見做される場所に。
彼を視線で追っていた者達は余りにも理想に適った獲物の出現に、つい、二の足を踏んだ。
そんな者達を出し抜いて、一人、すぐさま同じベンチに腰を下ろした彼。
「こんばんは」
キャップを目深に被り、男前度を上げるブルゾンを羽織った彼は、白い息を舞い上がらせて和泉に声をかける。
和泉は先程の淀みない足取りに反し、ぎこちない態度で会釈した。
「今日、寒いですね」
「あ……そうですね」
「探してんでしょ?」
「え?」
唐突に和泉との距離を縮めて彼は問いかけた。
「男、探してんだよね?」
スラックスを纏う太腿に大胆にも手を宛がう。
「ここ、火照ってんでしょ?」
太腿伝いに、自己紹介なんぞ省き捨て、コートの裾を割って股間に掌を宛がう。
「……やっ」
和泉は彼と距離をとろうと反対側の肘掛けへ咄嗟に身を寄せた。
当然、彼はそんな隔たりをまたも無にして細身の和泉に先ほどよりも密着してきた。
「いや、じゃないだろーが。ここ、こんなに硬くして」
きゅっと、かたちを確かめるように服越しに握り締めてくる。
「やぁ……」
首を窄めた和泉は真横のブルゾンに爪を立てて涙目で恐る恐る彼を窺った。
キャップのツバで目元を隠した彼は、そんな怯えた眼差しに、生唾を飲んだ。
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