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8-もしも二人が高校の先輩後輩の関係だったら編

放課後、体育館で部活練習に励むバスケットボール部。 「あっ」 部員の一人である尾上雄太の指先をボールが掠め、開放された通用口から外へと転がり出てしまった。 雄太は慌てて後を追う。 夕日の降り注ぐ舗道にころころ転がるボール。 丁度、通りがった一人の生徒の足元でタイミングよく止まった。 上級生の和泉先輩は白い両手でそっとボールを拾い上げた。 思わず足を止めた雄太の元へ、ローファーをこつこつ言わせ、やってくる。 「はい」 汗だくの雄太に、涼しげな面持ちの和泉先輩はそっと微笑みかけ、ボールを手渡した。 一瞬だけ触れた手は熱持つ身からすると、とてもひんやりと感じられて。 「あ、ありがとうございます」 私立学園の白ブレザーがよく似合う、綺麗に整った、優等生然たる顔立ち。 銀縁の眼鏡が女子にも勝る美顔をさらに際立たせている。 思わず見とれた雄太に和泉先輩は微笑を深めた。 「すごい汗だね」と、言って、皺一つないハンカチを取り出すと。 ニキビのない健康的な肌にそっと押し当てた。 夕日に包まれた、そんな些細なひと時に、二人は恋に落ちて。 昼休み、雄太は滅多に来ないだだっ広い図書館へやってきた。 創立百年を超える学園の図書館は最も古い建物で、所狭しと書棚がずらりと並び、隠れんぼうでもやろうものなら鬼は相当な労力を要することだろう。 受付カウンターを覗いてみれば俯きがちな図書委員の和泉先輩の姿が。 「せんぱーい」 「……え、雄太君?」 「来ちゃいました」 「お昼はどうしたの?」 「まだです。和泉先輩が図書委員の仕事してるの、どんなかなぁって、気になって」 白ブレザーの前を開け、黒いシャツの第一ボタンを外して同色のネクタイを緩めた雄太は、きっちり制服を着こなす和泉に照れたように笑いかけた。 後輩の雄太に和泉先輩はそっと頬を紅潮させる。 「今から返却された本を戻しにいくんだけれど」 「あ、付き合います」 チャンス到来、と雄太は頭の中でガッツポーズ。 付き合うこととなった二人だが、まだ、キスどころか手も繋いでいない。 雄太は毎日チャンスを窺っていた。

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