83 / 107
20-美人痴漢は孕み男子
「えええええ!?」
のっけから雄太は驚いた。
まさかの和泉の発言にカチンコチンに凍りついた。
「びっくりさせてごめんね、雄太君」
驚愕している雄太を前にした和泉は申し訳なさそうに微苦笑した。
落ち着いたこげ茶色の髪をそっとかき上げて、斜め下に視線を向ける。
「いつか言おうと思っていたんだけれど」
「……あの、その、孕めるって……つまり、えっと」
「僕は男でありながら子供を宿すことができるんだよ」
「……、……、……」
「極稀にそういう特殊な体質の人間が生まれてくるみたい。僕もそのうちの一人ってこと」
「……、……、……」
高校生の雄太は初めて知らされた衝撃的事実に金魚の如く口をぱくぱくさせた。
そういう人間が存在することを知ってはいた。
しかし極少数と聞いていたし、まさかこんなにも身近なところにいたなんて……。
「ああああの、和泉さん、」
「雄太君の言いたいこと、よくわかるよ?」
メタルフレームの眼鏡を外すと、タオルハンカチでレンズを拭きながら、和泉は言う。
「僕、避妊薬、飲んでいたから」
「え?」
『あれ、和泉さん、何飲んでるの?』
『ビタミン剤だよ』
『和泉さん、何飲んでるの?』
『サプリメントだよ』
『俺も飲んでみたい』
『ふふ、雄太君には必要ないよ』
「だから大丈夫。安心して?」
そこは喫茶店だった。
客が出入りする度にドアのカウベルがカランコロン音を立てる。
カチンコチンだった雄太は徐々に氷解していく。
和泉は汚れてもいないレンズを黙々と拭き続けている。
グラスの中で小さくなった氷が一回転した。
「いいいいいい和泉さん!!!!」
がったーーーん!!
店内にいた客の視線が一斉に一箇所に集まった。
制服を着た一人の男子高校生がイスを倒す勢いでその場に立ち上がっていて。
向かい側に座る一人の美人系イケメンはその双眸を見張らせていて。
男子生徒は彼に大声で告げたのだ。
「おおっ俺の赤ちゃん産んでください!!!!!」
――X年後――
「こんなに待つ必要ありました?」
雄太の問いかけに和泉は頷く。
「本当はね、まだ早いって思うくらい」
ともだちにシェアしよう!