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夜、人の行き来が増した雑踏を雄大は苛々しながら進む。
平然と隣を歩む、私立小学校のシンプルな制服を着た湊は肩を竦めてみせる。
「伯父さん、そんなにセックスしたかったの?」
「クソガキ! 会ったその日にするわけねぇだろ!」
凍りついていた面々に慌てて「甥っ子」だと説明し、そのまま合コンに参加するわけにもいかず、途中退席してきた。
乱入されるのは初めてのことじゃない。
だが制服姿でランドセル、その上「パパ」とほざかれたのは初めてだ。
「おい、雄太、湊がまたやらかしたぞ!」
歩きながら自分の父親に電話をかけ、苛々をぶつけている雄大の横で、湊は母親譲りの美貌をふわりと歪めた。
情けない声で謝る弟の声に更なる苛立ちを誘われ、立て続けに文句を言う雄大は、湊の歪みに気づかなかった。
金曜日、伯父は甥っ子を自宅アパートへ止む無く連れて帰った。
皺のない長袖シャツに半ズボン、ネイビーのハイソックスを履いた湊は定位置となっている座椅子に座る。
ネクタイを剥ぎ取り、脱いだスラックスと一緒にちゃんとハンガーにかけ、冷蔵庫のドアを乱暴に開け閉めして缶ビールを取り出すついでに、共に常備してあるパックジュースも取り出すと。
部屋着に着替えた雄大はあぐらをかいた。
「ほら、クソガキ!」
「ありがとうございます、いただきます」
ハスカップのパックジュースをもらった湊はきちんとお礼を述べた。
ランドセルを横にしてジュースをちゅーちゅー飲み始める。
雄大は盛大にため息をつき、ビールのプルタブを開いた……。
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