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「……ん、そうだな」 「ごうごう言ってる」 荒々しい喧騒に反してトーンを落とした湊の声が鼓膜に心地いい。 「でも僕怖くないです」 「……うん?」 「伯父さんがいるから。ここは巣の中みたい。伯父さんと二人きり。外は嵐だけど、ここは安全」 湊はきゅっと雄大の背中に抱きついた。 年齢差のある年上三十路男の匂いを全身で感じ取る。 「巣って……じゃあ、俺とお前は……なんかの動物か?」 「うん。動物のつがい」 雄大は目を瞑ったまま苦笑した。 僅かな振動が伝わってきて、湊は、密着を強める。 「……おい……窮屈だって……寝づらい……」 寝づらい、とか言いながら雄大は寝てしまった。 騒々しい喧騒が夜を貫く中、湊は伯父の規則正しい寝息を毛布の中で聞く。 「伯父さんは将来僕のお嫁さんになるんですよ……?」 今夜も呪いの子守唄が密かに始まった……。 朝、先に目覚めたのは雄大だった。 まだ風の音はひどかったが、眠りにつく前よりもいくらか静まったような気がする。 暴風域を抜けたのかもしれない。 携帯で現在時刻を確かめた雄大は欠伸をした。 「……ん……」 はたと口を閉じて隣を見れば湊が天使のような寝顔で眠っていた。 恐ろしく睫毛が長い。 化粧でもしたみたいに唇の色味が浮いて見えた。 普段は大人びているが寝ていれば年齢相応のあどけなさが際立ち、雄大は、少しほっとする。 まだ小さいこいつは夢見がちというか、支離滅裂なことにばかり憧れて、いまいち現実に馴染んでいない。 出生が特殊なせいかもしれない。 これから成長して、視野がもっと広がれば、好奇心の対象も増えるだろう。 いつの日かちゃんと俺の元から巣立っていけよ、湊? 目を覚ました湊が隣を見れば二度寝に入った雄大が無防備に眠っていた。 外は大分落ち着きを取り戻し始めていた。 普段と違わない、車の走行音や鳥のさえずりが聞こえてくる。 湊はゆっくりと体の向きを変えた。 眠る雄大の額と頬と唇に順々にキスをした。 「伯父さん、大好き、伯父さん、僕のお嫁さんになってね?」 非常識極まりない甥っ子は愛する伯父に呪いの子守唄を無限ループで囁くのだった。

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