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「もしかしてお父さんに、自分の弟にとられて、悔しいって思ったの?」
「ち、違」
「もしかして僕の本当のお父さんって伯父さんなの?」
「馬鹿! クソガキ! んなわけねぇだろ!!」
顔だけは自由が利く雄大、野良黒猫がびくっとするほどの大声を上げた。
子役タレントも顔負け美麗フェイス、いやに見開かれていた湊の瞳孔が、しゅぅっと元に戻った。
「……そうだよね、そんなわけないよね」
「……わかったんなら、もぉいいだろ、このインチキ魔法さっさと解きやが――」
語尾の「れ」は湊の唇に食べられた。
今度は雄大が目を見開かせる番だった。
今日も一日あくせく働き、残業を早めに終えて半月前から決まっていた合コンに参加し、ビールを飲んで、大好きな軟骨から揚げを食べて、四人の内二人と連絡先を交換して、明日になったらメールしてみるか、そう思いながら帰ってみれば湊がドアの前に座り込んでいて。
まさかキスまでされるとは思ってもいなかった。
しかも舌が。
「ぅ……っ……」
湊は丁寧に丁寧に雄大の唇を唇で温めた。
くちゅ、ちゅっ、なんてマンガの効果音にありそうな音色そのものを紡いで伯父の雄大にキスをした。
ぞくぞくぞくぞく
自分より半分近く小さな湊に口づけられて雄大は震えてしまう。
いい年した三十路男のくせに思わず涙ぐんでしまう。
「ん……ぅ……ん……」
たっぷり時間をかけて母親譲りの舌遣いを披露してみせた湊は、ゆっくり、顔を離した。
ぷらんと垂れ下がった唾液の糸を指先にくるくる巻きつけて断ち切る。
「僕のファーストキス、伯父さんに捧げちゃった」
「……ばか」
「それから。念のため教えておくね」
もう体とっくに動かせるからね?
してやったり風な微笑を浮かべる湊のほっぺたを、雄大は、思い切り抓ってやったのだった。
雄大が風呂に入っている間、彼の携帯がベッドで振動を始めた。
帰らせるわけにもいかず、伯父が渋々泊めることにした甥っ子は、すかさず携帯を手にとると番号未登録の着信に出た。
「もしもし、今、パパはお風呂に入ってます」
相手は何やらごにょごにょ呟くとすぐに通話を切った。
眺めていた野良黒猫は呟く。
「ひどいにゃ」
「いいの、伯父さんには僕がいるから」
魔女の血を引く湊はふふふっと笑った。
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