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「も……っもう夕方です、和泉さぁん……み、湊が……っ帰って……ひ!」
「大丈夫、湊は雄大君のおうちに泊まってくるから」
「え、え……? そうなの?」
「だから今夜は夜通したっぷり、ね……? 僕に跨ってね、種馬雄太君?」
「ひ……っひひーん!!」
バカバカバカップルふーふ、夜通しというか一日中、えんやこらでい続けるようだ……。
「伯父さんは将来僕のお嫁さんになるんですよ」
転寝から我に返ればそんな台詞を耳にした。
件の湊が唱える呪いの子守唄だ。
「……なるか、クソガキ」
「あ、起きたんですか」
部屋の中は薄暗い。
日はすっかり落ちて夜の帳が下り、時々アパート前を通り過ぎる車のライトで室内が白く照らされていく。
「風邪引かないよう、ずっと、ぎゅってしてました」
すぐ隣で寝そべる湊の微かな声。
寝起きで、暗くて、表情がよくわからない。
衣擦れの音がやたら大きく響いて聞こえた。
「いま、なん、じだ……?」
「もうすぐ七時」
「あーーー……う、腰が……」
強張っていた体を仰向けにし、寝そべったまま大きく背伸びすれば、関節がぽきぽき鳴った。
「わ、すごい音」
「……もう……帰れよ、湊」
「今日は泊まります」
「……今日も、だろ」
「ふふっ」
湊は笑った。
お年玉をもらったときとは異なる大人びた微笑。
全くもって母譲りの笑い方だ。
ぼんやり霞むほの暗い天井を意味もなく眺めていた雄大の視界に湊が割り込んできた。
瞬きを繰り返す雄大を至近距離でしばし見つめて。
甥っ子は伯父のちょっとかさついていた唇にキスした。
雄大はもう特に何も言わなかった。
面倒くさい。
あと、瑞々しい唇の感触にほんの僅かながらときめいてしまって。
絶対、湊には秘密にしておこうと心に誓った……。
「湊がいつもお世話になって、どうもすみません」
「ええ、まぁ、ほんっとうに……」
雄大の自宅アパートまで和泉と雄太が湊を迎えにやってきた。
相変わらず妙な色気ある兄嫁に雄大はついたじろいでしまう。
「湊、ちゃんとお行儀よくしてた?」
「うん」
雄太パパに頭を撫でられた湊はこくんと頷いた。
美人男嫁なる和泉ママに気圧されて辟易している雄大をちらりと見上げ、肩を竦め、思うのだ。
早くオトナになって伯父さんの処女奪って、伯父さん、早く僕のモノにしたいな。
でも、昨日の伯父さんの態度からして、キスには抵抗なくなったみたい。
もう半分くらいは僕のモノになったかな?
「じゃあね、雄大伯父さん」
「もう来んな」
雄大はあっかんべーをしてドアをぱたんと閉めた。
「本当、湊は雄大のこと気に入ってるよなぁ」
「うん、お父さん」
「ねぇ、湊?」
「うん、お母さん」
「もしも弟か妹ができたら嬉しい?」
「ぶは!!」
尾上兄弟のリアクションはどうにもくりそつのようだ。
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