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第3話
二、三日、僕はぼんやりとしていた。
どんなに記憶をたぐろうとしても、なぜ自分が自殺しようとしたのか思い出せないのだ。
ぽつぽつと浮かび上がってくるのは、直と出会った高校生時代の思い出や、社会人になって籍を入れた時のこと。そして、僕たちの今いるこの島とコテージが、新婚旅行で直と行ったモルディブによく似ていることに気付いたのだった。
「つらいことは全部忘れてから天国に来いってことなのかな」
僕はここに僕を呼んだ神様の意図が分からないでいた。
砂浜をぶらぶらと散歩している僕を、コテージから直が呼んだ。
「竜也ーっ、メシできたぞーっ」
コテージのテラスで食べる直の焼き飯は絶品だった。
「うまい、うまい」
僕はがっついて口にほおばる。
「ちゃんと噛めよ、馬鹿」
直が微笑みながら、僕の口元をぬぐう。
「直の焼き飯は、昭和の懐かしい味がする」
とんちんかんな僕の感想も、うれしそうに頷きながら悪態で返してくるのが直だった。
「平成生まれが何言ってやがる」
僕らが出会ったのは高校生の時だ。
直が一つ上の生徒会長で、僕は運動部をとりまとめる運動部会長だった。予算で大もめして文化部会長と一触即発だった時に、直が大岡越前みたいにきれいに解決してくれた。その鮮やかさに惚れ込んだ僕は、半年間、直に告白し続けたのだった。
直はヘテロだったし、僕みたいな脳筋野郎が大嫌いだった……はずだった。なのに、あるとき突然、告白にこう返事をしたのだ。
「付き合っても、いいぜ」
〝氷の帝王〟という異名さえ持つ直を籠絡した僕は、一躍校内で有名になった。
僕はイケメンでも何でもないし、ただ少しガタイがよくてバスケがうまいだけの男だ。それなのに、どうして僕を受け入れてくれたのか分からなかった。
尋ねてみたら「断るのが面倒になった」と、なんだか直らしい理由だった。
直が進学した一流大学に僕も行きたくて、必死に勉強した。晴れて進学して、大学の近くで二人暮らしをすることにした。
そのころには親にもカミングアウトし、二人が社会人になってまもなく、僕らは養子縁組した。
名実ともに、家族になったのだ。
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