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第5話
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それからは毎日、くたくたになるまではしゃいで、意識がなくなるまで身体をつないで、泥のように眠った。
朝は直が先に起きる。たたき起こされた僕は、朝食を作る直の向かいでコーヒーミルをがりがりと回す。その香りで、少しずつ眠気が吹き飛んでいく。
――一〇〇日目の朝が来た。
二人で話し合って、特別なことはせずに過ごそう、と決めていた。
シュノーケリングをしてカクレクマノミに威嚇されたり、釣った魚をムニエルにして食べたり、砂浜で本格的な城を作ったりした。
気の利く神様なのか、僕らが欲しいと思った物は必ずコテージにそろえられていて、コーラが飲みたいと思えば、冷蔵庫に冷えていた。
僕はそれをグラスに注ぎ、テラスで本を読んでいる直に渡した。
「何読んでるの」
「……『最後のバカンス』」
タイトルを聞いて、僕は眉をひそめた。読んだことがあるのを思い出したのだ。とても嫌いだ、という感想とともに。
男が死ぬ間際の一瞬、神様が時間を止めて恋人と三年間のバカンスを与える、というストーリーだった。
「僕たちみたいだね」
「そうか?」
直は小説を閉じて、夕日を見ようと僕を砂浜に誘った。
浜辺に腰掛けて、水平線に沈む夕日を並んで眺める。
「夕日ってきれいだけど、気持ちがぞわぞわとせり上がってくる時があるんだ」
「逢魔が時ってやつだな」
魔物がやってくる時刻――と言葉の意味を思い出して、僕は吹き出した。
「魔物は僕か、いや、幽霊か」
直は僕をまっすぐ見つめて首を振った。
「――違うよ」
「……直?」
「お前は、幽霊じゃない」
意味が分からない僕に、直はあきれたように笑って、僕の肩に頭を預けた。
なんとなく、この日が沈むのと同時に、この猶予が終わってしまう気がした。
すぐに僕は異変に気付く。僕の肩に預けていたはずの直の重みを感じられなくなっているからだった。
不思議に思って見ると、直の身体が少し透けていた。
「な、直……?」
「お前は、ほんと……馬鹿だよ。俺なんかを追いかけてきやがって」
その言葉に、僕の記憶の殻が、バチンと音をたててはじけた。
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