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第2話
「ねえ、お姉さん暇なの?だったら俺らの所で一緒に飲もうよ」
考え事をしていた俺は声をかけてきた男をチラッと見た後、もう一度フロアに目を向けた。
いつの間に……。だいぶ長いことボンヤリしていたのか。目の前に立ち塞がるように、立った影が他に二つ。
「へぇ近くで見ると、ますます美人だ」
「なぁ一人なんだろ。俺らのとこまだ席あるからさ」
「大丈夫、俺等ってこう見えても紳士だから、怖がんないでよ」
何が紳士だ。三人がかりで壁のように囲みながらニヤニヤとした顔で迫ってくる男達を前に、俺は思い切り溜息を吐いた。
これだから派手なのは嫌いなんだ。昔っからこの派手としか言いようが無い見た目のせいで面倒臭い事ばかりだった。
目立たないように気を付けている、いつもの俺の格好とは違って、カラーコンタクトも眼鏡も外した本当の俺の容姿はだいぶ人目を引くと知っていた。
見た目が日本人そのものの両親に対して、隔世遺伝で北欧系の祖母の血が影響したのか、俺の容姿はかなり日本人離れをしている。今でこそ赤みがかったブラウンまで色が落ち着いた髪の毛も、子供の頃はトゥヘッドの状態だった。
その白金の髪も角度によってはブルーに見えるアッシュグレーの目も、学校という集団生活の場では悪目立ちする原因でしかない。小学校時代にはこの容姿を原因に何度もからかわれ、俺は中学校への進学時に校区を変えながら、出来るだけ目立たないように、黒のカラーコンタクトに黒縁の伊達眼鏡、それから髪の毛も黒く染めて毎日を過ごしている。
そんな俺が今日わざわざ髪の色を戻して、コンタクトを取り、吸血鬼なんて馬鹿馬鹿しいコスチュームでここに来たのは、こんな男達の相手をする為じゃない。
俺のこんな姿を知らない泰弘へ、いつもの姿では出来ない事をする為だった。
「暇じゃない。ちなみに俺は男だ」
俺は面倒くさいと思いながらそう言った。
まぁ、この見た目の時は中性的らしくて、男に見られるのと同じぐらい、女性に間違われる事も多い。しかも今日はある目的のために、わざと性別を分かりにくくしている。
とりあえずこれで勘違いに気がついたんだ。男と分かった以上は用はないだろ、さっさと立ち去れ。今度ははっきりと、俺は男達を睨みつけた。
「へぇ!お姉さんじゃなくて、お兄さんなんだ!!」
「まぁぶっちゃけ、こんなに綺麗なら、俺はどっちでもいいけどな!」
「俺も俺も!!お兄さんなら全然オッケー!」
バカじゃないかコイツ等。いや、バカなんだろう。間違いない。どこの男がこんな風に誘われて、それなら!って誘いに乗るって言うんだ。
あー、でも同じようにこの容姿を使って泰弘に迫ろうなんて思っている俺も、コイツ等と似たようなものか。しかもこれが目当ての泰弘なら、きっと俺は喜んで着いて行ったと分かっているから、どことなく居たたまれなかった。
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