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第4話
「なっ、誰だ!?」
「邪魔すんじゃねえぞ」
「おら、さっさとグラスを返せ」
だからなんで毎回毎回、三人揃って畳み掛ける。お前等は漫才のトリオか、狙ってるのか。そんなツッコミを心の中で呟きながら、俺もグラスの行方を目で追いかけた。
「あっ、武内さん……」
今度聞こえてきたのは、一人分の声だった。
ようやく見つかった泰弘に、良かったという気持ちと、そもそもなんでここに居るんだ、という気持ちが交互する。そんな俺の目の前で泰弘がグラスをわずかに傾けた。
「……何だこれは。こんなマズイ酒を俺は出させた覚えはないが」
「いや、えっと、これは……」
「あの、何か、スタッフの人が、配合を間違えてしまったみたいで」
しどろもどろに口を開く三人の言葉を待たずに、泰弘が「ふーん」と相槌を入れた。
何が起きているんだ。なんでコイツ等こんなにおどおどしてるんだ。さっきまでの自信満々の様子は、どうした?
四人の様子をキョロキョロと見比べていた俺と泰弘の目が重なった。胸がドキッとする。でもいつもとは見た目が全然違うんだ。親戚でも気が付かないのに、始めてみる泰弘が気が付くはずがない。俺は慌てて、知らない人の振りをして頭をペコリと泰弘へ下げた。
「とりあえず彼は俺が連れて行く。残りの酒はお前が飲んでおけ」
味見をした俺のグラスを、三人の内の一人に手渡しながら、泰弘が俺の手を引っ張って歩き出した。どこに連れて行かれるんだ。俺だっていうことがバレてるんだろうか。
少し早足で人混みの間を縫っていく泰弘に、何も言われないまま引かれていく。あまり強くないアルコールを一気に飲んだのが悪かったのか、ちょっと歩いただけで、身体がどんどん熱くなっていた。
歩き回るのが今はちょっとしんどいんだけど、どこに行くんだろう。
「あと少しだから」
表情に出ていたのか。チラリと目を向けた俺の頭を泰弘の大きな手がクシャリと撫でてくる。
なんでコイツは俺にこんな態度を取っているんだろう。泰弘にとって俺は初対面の相手なはずなのに。それとも、こうやって優しく絆して、その場限りの遊び相手を手に入れるのに慣れているだけなんだろうか。まぁ、昔からモテててたのに、特定の相手の噂は聞かない奴だったもんな。こうやって一人に縛らないで、適当に遊んでいたとしても何もおかしくない。
むしろ俺だって、ちょっとした悪ふざけが許されそうなイベントの決まり文句を利用して、キスの一つぐらい仕掛けようと思っていた。中性的に見える格好を選んだのだって、この方が拒否されないんじゃないかって考えたからだもんな。
俺は黙って引かれていた手に力を込めて、泰弘の手を握り返した。
「Trick or Treat」
「……Trickで。あいにくお菓子は持って居ない」
俺を見る泰弘の目がゆっくりと細くなっていく。今の間も、この視線も何だったんだ。いや、それよりも待て、何だ今のフッて笑うキザっぽい笑い方は。なんでそんな笑い方が似合うんだ、おかしいだろ。
他の奴がやったならムカつくだけの表情さえ、泰弘がやったら滅茶苦茶似合っているなんて、世の中って何だか不公平だと思ってしまう。
「どうした怒ってるのか? 何だお菓子がよかったのか?」
「お菓子が貰えなくて、拗ねてるわけないだろ」
「あぁ、なるほど。イタズラなら、もう少し待て」
別にイタズラのタイミングが流されたと思って怒ってるわけでも当然ない。でもこうやって、泰弘が遊び相手に選んでくれるのなら、俺としては都合がいい。
そう思うのに……何だか心が痛くなる。
そんな事を考えている内に連れて来られたのは、二階へ続く階段だった。
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