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第5話

「ドリンクバーの側にある大きなジャックランタンの近くに金髪と、赤縁のメガネと、クロムハーツのチェーンを付けたような三人組の男達が居る。アイツ等をつまみ出しておけ。あと、今後は立入禁止でゲートに情報も流しとけ」  泰弘が階段の入口に立っていた黒服のスタッフへ指示を出す。あれ?もしかしてコイツ機嫌が悪いのか。偉そうと言うか何と言うか。いや、実際に偉い立場だという事は知っているけれど、こんな態度をとる泰弘を見るのは初めてだ。  どうしよう。そんな機嫌が悪いやつに赤の他人がいきなり絡んだとして、ちゃんと相手になんてしてくれるのか。そもそも俺だって本当に気付かれていないのか。あぁもう、不安になってくる。 「とりあえず、ここに入って」  通されたのは下のフロアが見渡せる部屋だった。照明が抑えられ、薄暗い部屋の全面はガラス張りになっている。ここって俗に言うVIPルームとかいうやつだろうか。始めて入ったけど、中ってこんな感じなのか。思わず不安を忘れて、ワクワクしながら俺はそのガラスへ近づいた。  灯りをほんの少ししか点けないのは、下のフロアの見え方を邪魔しないためかもしれない。対照的に明るいフロアは、ここからは良く見える。いかにも特等席って感じだった。  ずっと泰弘はここに居たんだろうか。一時間近くフロアを捜し回っても見つからなかったのはそのせいか? 「ここからなら、良く見えるだろ」  突然近くから声が聞こえた。横を向けば、俺の方を向きながらガラスに凭れた泰弘が、すぐ傍に立っていた。 「あっ、うん……」  何だその返事は、と我ながら思うけど、心臓が突然ドキドキし出してヤバかった。  コイツが格好良すぎるせいか。もしかしたら、いつもよりも近い距離で見られて緊張しているせいかもしれない。  どっちにしても顔もすごく熱かった。鏡が無くて見えないが、絶対に赤くなっているはずだ。なんで突然、と気持ちが焦る。  いつだって泰弘の近くに居れば緊張したし、目が合えばドキドキだってしていた。それでも今日よりはマシだった。  男が男に見つめられて、こんなに赤面してるなんておかしいだろう。いくら中性的な見た目とはいえ、喋ってるのを聞かれている。俺自身の正体はバレていなくても、男だという事は分かっているはずだ。 「あっ、アイツ等さっきの……」  ちょうど泰弘の視線を逸らす良いネタがあって、俺は下のフロアを指差した。ちょうど外に追い出されていく様子に、俺はそういえばと小首を傾げた。 「ここってナンパ禁止なのか?」  追い出される理由がそれなら、アイツ等がつまみ出されるのも分かるけど、今時そんな厳しいイベントで集客が苦しくならないのは、なんでだろう。 「……そんな訳があるか」  呆れたように泰弘が「はぁ」と大きく溜息を吐いた。なんでそんな溜息を吐かれているんだ。それになんでコイツは俺の後ろに回り込んで来たんだろう。  抱き締められていないけど、ガラスと泰弘の腕の間に挟み込まれるような体勢に、俺の心臓はますますドキドキしていく。 「下を見てみろ」  耳元で囁かれた声の響きにゾクリとする。 「色んな格好の奴がいると思わないか。人間の中身そのままだ」  泰弘の吐息が耳を掠めていく。その感触だけで、触れられてもいない俺の身体がビクッと跳ねた。  ヤバイ、なんでだ、恥ずかしすぎる。とりあえずこの状況をどうにかしないと。心臓だけじゃなくて、頭も沸騰しそうで、泰弘が何を言っているのか考える余裕もない。 「ちょっ、と離れ」  て。と最後の言葉を言う前に、後ろから回された指が、今度は首筋から鎖骨に向かって撫でていった。

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