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意識する心は正直に

「だから、オレこう見えて童貞なんだって!」 「……はぁ!!??」  嘘だろ。てかそれはないだろ。  童貞なやつがあんな濃厚なキスをかませるか? 「ま、それは嘘だけど」  ほらな。やっぱりこいつの言葉は信用ならない。  俺は呆れて黒谷を見る。 「でも、節操なしなやつではないってことはホントだがら。あとせんせーのことが好きってのもホントだし。せんせー以外のやつとキスもそれ以上もしたくないってのもホント」 「ふーん」 「あ、せんせー信用してないでしょ?」  そりゃあ、これで信用しろっていう方がおかしい。 「まぁいいや。で、せんせーはオレのことどう思ってるの?」 「え?はぁ?」 「いやだから、オレのこと好きなの?」 「……いや…お前はここの生徒だし…俺はここの教師だし…」 「そんなの、オレ3年だし。あとちょっとで卒業だし大丈夫でしょ。てかせんせー、オレのこと好きなんだね」  耳たぶからゆっくり俺の頬に戻った黒谷の指。 「……そんなことは…」  いや。黒谷のこと好きだけど…。  でもやっぱり教師と生徒という障害があるし。 「大丈夫。もし万が一にオレたちの関係がバレて、せんせーが辞めないといけなくなった時はオレがせんせーのこと養ってあげるから。ね?」 「ちょっと」  俺よりも年下に養ってもらうって、それはちょっと……。 「まぁ大丈夫だろうけど」 「何でお前、そう根拠もなくそんな……」  絶対バレないって保証はないだろう。 「うーん。だって付き合ってみなきゃ分からないし。付き合う前からそんなこと言ってたら何も始まんないじゃん」  ま、確かに…こいつの言うことも一理あるな。 「…何かお前のそういうところ好きだわ…」 「え、まじ!?せんせーオレのこと好き??」 「いや。いや…まぁ…好きだけど…」  俺は恥ずかしくなりうつむく。 「せんせー可愛い。オレが一生せんせーのこと幸せにしますね」  そう言い俯いてままの俺を強く抱きしめてきた。  せっけんの匂いに混じって汗の匂いもする。  俺は黒谷の首に鼻を近づけ、せっけんと汗の匂いを嗅いだ。 「ちょっ、せんせーそれ誘ってます?」  抱きしめたまま、戸惑ったような声音の黒谷。 「さぁー、どうだろ」  俺はそんな黒谷が少しだけ可愛く思えて、からかってみた。 「あーいいです」  抱きしめていた腕を緩め、俺の唇にいきなりキスをした。  先程のような奪うようなキス。  あっという間に口内に入ってきた舌が俺の舌と絡める。 「……ちょっ…んっ」  何度も角度を変えながら奪われる唇。  俺は黒谷の胸を叩いて、離れさせようとする。  そのまま何度もキスされた唇。  俺の唇をひと舐めして、やっと離れた。 「ここ学校だから」 「いいじゃないですか。夏休みだし大丈夫です」  そういう問題じゃないけど…。 「比呂さん、これからどうぞよろしくお願いします」  いきなり改まったように頭を下げた。 「えーと。まぁ…よろしく」 「ふふ。可愛いですね」 「あぁ?」 「いえ。好きな人と両思いになれて嬉しいです」  笑顔の黒谷。俺も微笑んだ。  ――俺の恋人は、生意気な年下しかも生徒。  でも、こいつとは上手くやっていけそうな気がするから不思議だ。  俺たちの恋はまだまだ始まったばかり。

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