129 / 132

(2)

でも何でそんなこと俺に興奮気味に?? あ、課外授業の時に生徒との雑談に使えそう! 「ね、柏木先生って恋人いるんでしょ?」 「……えっ」 「やっぱりその反応はいるわね!」 「えーと…まぁ…」 「よし!今日はハグの日!その恋人に柏木先生から抱きついてみよう!そしたらその恋人さんもきっと喜ぶよ〜!しかもエプロン姿でとかめっちゃくちゃ萌える…!」 後半の方はひとりごとみたいで聞こえなかったけど、千秋さんに俺の方から抱きつく、か…。 でも確かにいつも受け身。 千秋さんの方からだしなー。 うん!今日は俺から抱きついてみようかな。 「西先生、俺ちょっとやってみますね」 「え、え、えぇー!?えーやるの!!??」 更にこちらに顔を近づけてきた西先生。 西先生の綺麗な顔が間近にあって、ちょっと怖い…。 「西先生!!うるさいですよ!早く授業に行ってください。教師たるもの5分前行動が当たり前!」 そんな西先生の横に仁王立ちで立って説教を始めた教頭先生。 「げっ、教頭先生…わかりましたわかりました。授業行ってきます」 まだまだ続きそうな教頭先生の説教をスルーした西先生は慌てたように職員室を出て行った。 あ、俺も次授業だった。 行かなきゃ。 * 17時にきっちり雑務を終わらせ、学校を出た俺はスーパーでミルフィーユ煮の材料を買ってきた。 レシピを開いたスマホの画面を料理しながらでも見えやすいところに立てかけて準備完了。 「よし、白菜に豚肉にあとコンソメも買ったし、作るぞー!」 豚肉と白菜を交互に鍋に敷き詰めるのに一苦労しながらも、何とか出来上がった。 味も何度も味見して確認したし、見た目も結構綺麗に出来た! 「ーーただいま」 ちょうど出来上がったミルフィーユ煮を皿に盛り付けたところで帰ってきた千秋さん。 「ただいま。何かいい匂いする…」 「あ、千秋さんおかえりなさい」 「え、これ碧が作ったの?」 玄関からすぐ俺のいるキッチンの方にやってきた千秋さん。 皿に盛り付けたミルフィーユ煮をじっーと見ている。 「いつも千秋さんが作ってくれるので、たまには俺も何か作ろうと思って…。一応味見したので不味くはないですよ」 俺はじっーとミルフィーユ煮を見つめている千秋さんに笑みがこぼれる。 あ、鍋、洗わないと。 料理は片付けまでが料理だ。 「急いでこの鍋洗っちゃいますね。温かいうちに食べないと冷えちゃいますしね」 「……すごい嬉しい…」 「えっ、なんか言いました……って千秋さん?」 ぼそっと呟いた千秋さんの声があまり聞き取れず、千秋さんに視線を向けたが、さっきまでいた千秋さんの姿が見当たらない。 あれ千秋さんどこ行ったんだろう…? 荷物でも置きに寝室に行ったのかな…? 「ーー碧」 千秋さんの腕が後ろから伸びて、俺を優しく抱きしめた。 「…あの千秋さん今、鍋洗ってて……ひゃっ」 後から抱きしめたまま耳元に息を吹きかけた千秋さん。 「すごく嬉しい。ありがとう碧」 「いえ、こちらこそいつもありがとうございます千秋さん」 さらにぎゅっと抱きしめられ、耳元で囁く千秋さん。 「ほら冷えちゃいますし、早く食べましょう」 「そうだね。まだ碧の体温感じていたいけど…」 名残惜しそうに俺から離れていった千秋さんは、「着替えてくるね」と寝室の方へと行ってしまった。 あっ、そういえばハグの日ーー。 俺から千秋さんに抱きつこうと思ってたのに先越されちゃったな。 でも絶対、あとで俺から千秋さんに抱きつこうと。 ダイニングテーブルに箸を並べつつ千秋さんにいつどのタイミングで抱きつこうか思案した。 いいや。着替えてこっちに来たタイミングで抱きついちゃおう。さっきのお返し。 「ごめんね。待たせちゃって。さぁ食べよう」 寝室からこっちに戻ってきた千秋さん。 「ーー千秋さん大好きです」 俺は真正面から千秋さんの胸に飛びつき、ぎゅっと腕を回した。 「え、急に何?どうしたの?」 困惑しつつも俺の背中に腕を回してくれた千秋さん。 「今日、8月9日はハグの日だそうです。だから千秋さんに抱きついちゃいました。千秋さんに先越されちゃいましたけど」 自分で発した言葉に急に恥ずかしくなり、俺は千秋さんの腕から離れようとしたが、千秋さんにさらに強く抱きしめられてしまった。 「あの…千秋さん?」 「ーーミルフィーユ煮より先に碧が食べたいな」 「え、え、え、千秋さん!?」 雄のスイッチが入ってしまった千秋さん。 色気の含んだ声で囁かれ、耳朶を千秋さんの長い指が優しく撫でる。 ーーーーそしてそのまま寝室のベットまで運ばれ甘く優しく千秋さんに抱かれてしまいました。 ハグの日ssおわり

ともだちにシェアしよう!