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Sweet Birthday
【千秋誕生日SS】
「お疲れ様でした」
デスクを片付け、西先生に挨拶し、足早に職員室を離れる。
10月21日。
今年は平日だが、俺にとってはとても大切な日だ。
千秋さんは今日は少し帰るのが遅くなると今朝教えてくれたので、準備には余裕をもって行える。
俺は何度か千秋さんが買ってきてくれたケーキ屋、drageへと向かう。
「いらっしゃいませ」
こぢんまりとしたお店はシンプルで可愛らしい内装で、女性客だけではなく男性のお客さんもいて、男一人で買いに行っても特に浮いておらず少し安心する。
ひとりで切り盛りしているのだろう、パティシエの男性が接客もしており、俺は予約していたケーキを受け取った。
よし、ケーキの準備オッケー。
あとはスーパーに寄って食材を調達しよう。
千秋さんのお家に住んでから2回目の料理。
今日のメニューはシチューだ。
シチューは千秋さんの好きな食べ物。
しかも今日は10月なのに最高気温が12度。すごく寒いこんな日は温かいものが欲しくなる。
丁度よかったのかも。
「いい感じ」
お玉で焦げないようにかき混ぜながら、思いのほか上手にできたシチューに一安心する。
「ただいま」
丁度、千秋さんが帰ってきたので俺は火を止め、千秋さんのもとへと駆け寄る。
「千秋さんおかえりなさい」
「ただいま碧。今日は寒いねー」
千秋さんは巻いていたマフラーをはずし、俺の頭を優しく撫でる。
その手が冷たくて俺は「シチュー作ったので食べましょう」とキッチンの方へ戻る。
手を洗いキッチンへとやって来た千秋さんは、お皿に盛り付け終わったシチューを運び、ふたりで席に着き手を合わせる。
「いただきます」
俺は千秋さんがシチューを口に運ぶ姿をこっそりと見つめる。
「うん美味しい!」
「……よかった」
千秋さんは俺に優しく微笑み、食べ進める。
その姿に安心し、俺もシチューを口に運ぶ。
うん。美味しい。
千秋さんが作る物には全然敵わないけど、よかった。上手くできた。
あっという間に完食した俺たち。千秋さんが「碧ありがとうね」と俺の髪を優しく撫でる。
「あ、そうだケーキ!」
シチューが上手くできたことに安心して、ケーキを買っていたことを忘れていた俺は冷蔵庫から白い箱を取り出す。
「千秋さんお誕生日おめでとう」
「あっ、そっか、今日誕生日か」
千秋さんがぼそっと呟く。
「ケーキはdrageで買ってきました。食べましょう」
俺はナイフでケーキを切り分け、お皿にそれぞれ盛る。
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