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ヒーローな彼

「ちょっとトイレ行ってくる」  元々お酒に弱い上に、最近飲んでいなかったので、ビールを1杯とオレンジの酎ハイを1杯飲んだところで、少し酔いが回ってきた俺は真中に一言入れ、トイレへと立った。  あんまり酔って明日二日酔いになってもいけない。明日は仕事は休みだが、引き継ぎの準備とかもしないといけない。  俺は水で顔を洗って、真中のいる席へ戻るためにトイレを出たところで入れ違うようにトイレへと入っていた男性。横を通り過ぎるときに、微かに匂った嗅ぎ覚えのあるレモンに似た爽やかな香り。  俺は後ろを振り返ったが、人はいない。  やめよう。もうそろそろ諦めないと。匂いが……あの人。大学生のころ一目惚れした彼と一緒の香りがしたからって、彼とは限らないんだ。同じ香水をつけた人なのかもしれない。  まだあの人のことを好きな自分の女々しさに嫌気がさす。話しかけることも出来なかった自分なのに……。  俺は早歩きで席へ戻ったが、俺の様子がおかしいのに気づいた真中が「帰るか」と言ったので、居酒屋前で別れた。     真中と別れた俺は駅前通りを過ぎ、街頭の少ない道路を俯きがちに歩いている。  そろそろ忘れないといけないと思っている。あれから、3年も経っているのに――。はぁー。小さく溜め息を吐いた俺は、俯きがちだった顔を上げた。 「ねぇねぇ、お兄さんこれから暇?」  顔を上げた真正面に、自分より若い男がニヤニヤしながら立っている。 「いえ、急いでいるので……」  俺はびっくりしたが、普段よりも低い声できっぱりと言って、男の横を通り過ぎろうとした。が、そんな俺の腕を握ってきた男。 「ちょっと」 「いいじゃん。お兄さんなら俺いけるよ」  握られた腕を振り回して、男の手を離そうと試みたが強く握られているため振り解くことができない。

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