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ヒーローな彼

 そりゃそうだよね。彼は俺のことなんて覚えていないよね。3年前よく利用していたスーパーの店員なんて覚えているわけがない。そんなの分かっていたのに……。分かっていたのに、涙が溢れてきた。  そんな俺の涙を見た彼は、慌てて近づいてきて自分のハンカチで流れている涙を拭いた。 「やっぱり怖かったよね。大丈夫だよ」  少し屈んで俺と同じ目線になった彼は、流れてる涙を拭きながら優しい声音で話しかける。目の前に好きな人の顔があって冷静にいられる訳もなく、後ろへ一歩下がった。 「ほんとに大丈夫です。失礼します」  俺は早口で言い、一礼し彼の顔も見ずに走り出した。  まさか、まさか好きな人と再会するなんて思わなかった。しかも、助けてくれたのが彼って、恋愛ドラマ的に展開にテンションも上がる。  でも、助けてもらったのにこんな態度じゃいけなかったかな…。涙まで拭いてくれたのに、逃げ出すようなことしちゃったし――。  俺は走っていた足を止めた。  やっぱり、ハンカチ洗濯して返したい。  俺は涙を拭いてくれた白いハンカチを思い浮かべた。 「あ、いたいた」  もう一回来た道を戻ろうとしていた俺は、後ろから声がして振り向いた。 「よかった。やっぱりこの辺暗いし、危ないから送るよ」  走って追いかけたのか、おでこに微かに汗が滲み出ている。 「家、この辺なの?」  汗を拭わずに俺に聞いてきた彼。俺は自分の持っていたハンカチでその汗を拭こうとした。が、身長の差で彼のおでこにどうしても手が届かない。  そんな俺の姿を見て、クスッと笑った彼は屈んで手が届くようにしてくれた。  その笑った顔がやっぱり綺麗で、思わず見惚れてしまっていた。

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