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ヒーローな彼
「――あれ?拭いてくれないの?」
ハンカチを持ったまま呆然と立っていた俺に、彼は悲しそうに言ったことで我に返った。
「………あ、あ」
俺は慌てて汗を拭いた。そんな俺を見て笑っている彼。
「あの…っ!あなたのハンカチ!汚してしまったので洗濯、してお返ししたいんですけど…」
汗を拭いたハンカチを握り締めたまま、声が裏返るのも気にせず言った。そんな俺の姿を見てまた笑った彼。
やっぱり、この人の笑顔綺麗だ。
「じゃあ、俺もそのハンカチ洗濯して返したいなー」
笑顔に見惚れていた俺は彼の言った言葉を理解するのに少しばかり時間がかかった。
「いやいや。そんなこと大丈夫です」
俺は慌てて断りの言葉を述べたが、握り締めていたハンカチをさらっと奪った彼。一瞬すぎて、驚いた俺の顔は、パチパチと何回も瞬きをしている。
「ふふ。碧さん面白い」
短時間の間に何回も彼の綺麗な笑顔が見れた俺は、そんな彼の呟きに…俺の名前を知っている彼に疑問を持つことも出来なかった。
「はい。これハンカチ。洗濯して返すためには、連絡先教えないとね」
ハンカチを俺に渡した彼は、持っていたメモ紙をちぎって、暗闇の中で名前と電話番号書いている。
―――高宮千秋。
渡してきた紙には癖のない綺麗な字でそう書かれていた。
名前、高宮さんっていうんだな。
高宮千秋。高宮千秋。俺は何度も何度も心の中で名前を呟いた。
その後、高宮さんに家まで送ってもらった。
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