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恋人キス

 俺は千秋さんの胸を叩いて、離れさせた。 「ふふっ。碧の唇が柔らかくて、熱中しちゃった」  微笑みながらそう言った千秋さんは前を向き、車を走らせた。  明るい時間……というかまだ午前中の車の中でなんてことをしてしまったんだ…。  外からも丸見えだし、後ろの車からも見えてたよな。  って、キスも衝撃的だったけど、その前!  俺が千秋さんに告白して、千秋さんもその告白は嬉しかった。  それって、つまり俺と千秋さんは、恋人同士、なのか?  俺と千秋さんが恋人って……夢じゃないよな。  え、どうしよう…嬉しすぎる。    その後、動揺と困惑、嬉しさで真っ赤な顔の俺は話すこともできず、車の中は無言のまま目的地である俺の家へと着いた。  父さんの車の隣に停めた千秋さんは、シートベルトを外し、俺の前に体を近づけてきた。  ――まるでキスするように…。  どんどん千秋さんの綺麗な顔が近づいてくる。  待って、待って。  家の前でキスは流石に駄目だ!  キスされると目を瞑ってしまった俺の唇には、何も触れず、千秋さんは回り込んでただ俺のシートベルトを外しただけだった。 「………え」  恥ずかしい。  キスされると目を瞑ってしまった様は、キスを待っていたみたいで、恥ずかしい。  千秋さんはそんな俺に微笑み、頬にチュッと軽く触れた。 「え、え、え!?」  すぐ離れた千秋さんの唇。  そのまま何も言わず車を降りた千秋さん。 「……今キスされた…」  完全に油断していた。 「碧、降りないの?」  助手席の扉を開けて、外から声を掛けた千秋さんの声で我に返り、慌てて車を降りた。

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