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挨拶は強引に

「千秋さんなら、安心して任せられます」  フォークに一口分切ったショートケーキを刺して食べ始めた母さん。  え、そんな、あっさり? 「あ、でも…碧、家事したことないので、ご迷惑かけるかもしれないわ」 「え、待って。母さんいいの?」 「いいじゃないの。職場から近いほうが碧もいいでしょ?でも、千秋さんのとこにお世話になるから、ちゃんと家賃代とか出すのよ」  何でもないとばかりに冷静に俺に言った母さん。 「父さんは?」 「お父さんには私から言っとくわよ。ほら早く必要なもの詰めてきなさい」  母さんはショートケーキに「美味しい」と言い、千秋さんと話しだした。  俺は2階にある自分の部屋へ向かい、必要なものなどをボストンバックに詰めた。  荷物を詰めたボストンバックを持って、リビングに行くと、千秋さんと母さんは意気投合していた。    母さんは名残惜しそうに千秋さんに別れの挨拶をしていたけど、普通、息子にするんじゃないだろうか。 「何だかんだ上手くいってよかったね」  車の中。  ほっとしたように言った千秋さん。  あんな強引な感じだったけど、許可した母さんは完全に千秋さんのお顔に惚れたからだろう。  顔がいい人は得するっていうのはほんとらしい。 「よし。このままデートしよう」 「……デート、ですか?」 「うん。一緒に住むにあたって必要なものとか買おう」

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