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甘い夜のはじまり
「碧は疲れてるだろうし、ここでゆっくりしてて」
テレビをつけた千秋さんは、ソファーに座った俺の頭をポンポンと撫でてキッチンへと戻っていった。
あまりにも不意に手を置かれたので、何も言えなかった。
――俺、千秋さんにときめいてばっかだな。
横目でキッチンに立っている千秋さんの姿を窺った。
*
1時間もしないうちに、ソファーの前のテーブルに料理を持ってきた千秋さん。
エビとイカのアヒージョにフランスパンのトーストと白ワイン。
アヒージョって家で作れたんだ。
簡単なつまみって言ってたから、野菜炒めとか冷奴とか思っていたので、まさかこんなにお洒落な料理が出てくるとは思わなかった。
しかもお酒も白ワイン。
実はワインを飲んだことがない。
なんか、苦味と渋みがあって本当に好きな人しか飲めないイメージ。
千秋さんは俺の隣に座り、ワインのコルクを開けてグラスに注いでいる。
「……俺、ワイン飲んだことないんですけど…」
俺の分のワインを渡してきた千秋さんに小さい声で呟いた。
てか、今更言っても遅い。
注ぐ前に言わないといけなかった。
「大丈夫だよ。飲みやすいやつだから、一口飲んでみて」
微笑みながら、俺にグラスを持たせた。
その距離が思ってたよりも近くて、間近で千秋さんの綺麗な顔が視界に入り驚いた。
「…えーと…じゃあ」
「うん。乾杯」
そう言い俺の持ってたグラスに自分のグラスを軽く当てた。
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