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甘い夜のはじまり

 千秋さんがすぐ近くにいる――膝が軽く当たってる。  それだけでドキドキする。  俺は横にいる千秋さんを意識しながらも、ワインを一口飲んだ。 「……あ、美味しい」  苦味も渋みもそんなに強くなく、白ぶどうのフルーティーな味わいと香りが口の中に広がる。飲みやすい。 「よかった」  にこにこ微笑んでいる千秋さん。  俺はその顔をできるだけ視線に入れずに、アヒージョも食べてみた。  お店で食べるほどのクオリティですごく美味しいし、この白ワインにも合う。  でも、昨日みたいに酔っちゃいけないから、飲み過ぎないようにしよう。  ワインはこの1杯だけしか飲まない。  そう心に誓った。  食べて飲んでいるうちに、千秋さんとの近さも気にならなくなり、横にいる千秋さんの目を見て喋れるようになった。  ワインは千秋さんに2杯目を勧められたけど、丁重に断った。 「碧はなんで俺のこと好きなの?」 「…えっ!?」  突拍子もなく聞いてきた千秋さん。  なんでって…大学生の頃、千秋さんの姿を初めて見たとき、あまりにも綺麗な千秋さんの姿を見て、胸がざわついて初めて恋を知った。  …とはいえないか。  千秋さんはあの頃の俺のことなんて覚えていないし、そんなこと言ったら、優しい千秋さんが悲しい顔をして「ごめんね」って謝るに決まっている。  この綺麗な微笑みが好きなんだ。  この顔を壊したくない。 「――あの時…助けてくれた千秋さんがかっこよくて、優しくて気になってたんです」  あの日。再会した時のことを思い出しながら話した。

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