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突然の訪問者
「……狼?」
「そう狼。あれ、紳士ぶってい―――」
「――姉さん!」
彩さんの言葉を遮るように千秋さんの声が重なり、最後まで聞けなかったけど、ふたり仲いいんだなー。とほのぼのした。
「碧、朝ご飯食べよう」
彩さんを一回睨み、俺に微笑んだ千秋さん。
サンドイッチの入った皿を持ってきた。
「あら~美味しそうね」
ソファーの前の机に置いたサンドイッチに、早速手を伸ばそうとしている彩さんの手を、千秋さんがパチっと叩いた。
「なんで姉さんも食べるの」
「え、だって今日の撮影朝からだし、お腹空くじゃん」
口を尖らせている彩さん。
美人な彩さんがすると、ちょっと面白くてクスッと笑ってしまった。
「碧くん~っ!」
そんな俺にすかさず抱きついてきた彩さん。
香水の香りと化粧の香りが鼻を霞め、女性ならではの肌の感触に戸惑う。
「ちょっと!」
呆然と抱きつかれたままの俺に、慌てて千秋さんが彩さんの腕を離させた。
「なによ~、千秋!また嫉妬ですか?」
「うるさい」
離れていった彩さんは不服そうに千秋さんを見ている。
女性にいきなり抱きつかれるなんて、びっくりした。
「てか早く帰って」
千秋さんは腰に手を当て彩さんに言っている。
そんな立ち姿もやっぱりかっこいい。
「え、今日あんたにスタジオまで送ってもらおうって思ってるんだけど」
結局、千秋さんの作ったサンドイッチに手を伸ばし食べ始めた彩さん。
「はあ!?送らないけど」
「え、いいじゃない。碧くんも撮影現場とか見学、してみたくない?」
彩さんはタマゴサンドを頬張りながら、急に俺に話をふってきた。
「…えっ?撮影とか見学できるんですか?」
「できるよ~。見てみたくない?」
「うーん…」
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