56 / 132

モデルの千秋さん

 それから10分もしないうちに、スタジオのある地下駐車場へと車をバックで停めた千秋さん。  駐車が終わったと同時に、慌てたように車を降りた彩さんの手は、しっかり俺の腕を握っていて一緒に降りる。  そして、俺を引っ張ったまま走ってスタジオのあるビルの中へ。  エレベーターで、3階に上がり、ある部屋の扉を開けた。  白いバックの広い部屋。  テレビでよく見るような感じの所。  そこにはスタッフの人が忙しそうに働いている。 「長谷さんおはようございまーす」  彩さんはカメラの手入れをしている男性に挨拶しに行った。  その時も俺の腕を握ったままなので、一緒にその人の所へと近づいたんだけど。 「彩ちゃんおはよう」  おそらく30代前半ぐらいの、黒髪の男性が彩さんに笑顔を向け、隣にいる俺の方を不審そうに見ている。 「長谷さんこの人、千秋のお友達の柏木碧くん。今日は撮影の見学に来たの」  長谷さんの不審な目に気づいたのか、すかさず俺の紹介をしてくれた彩さん。  …あれ?俺、フルネーム彩さんに名乗ったかな? 「あぁー。千秋の。僕は長谷悠太と申します。一応カメラマンしています。よろしくね」  長谷さんは俺に笑顔で自己紹介してくれた。 「えっ?ってことは、今日、千秋来てるの?」  彩さんに視線を戻した長谷さん。 「はい。もうすぐこっちに来るんじゃないかな?私、準備してきまーす」  彩さんは足早にスタジオを出て行ったところで、千秋さんがスタジオへと入ってきた。

ともだちにシェアしよう!