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モデルの千秋さん
さっきまでセットのセッティングなどで忙しそうに動いていた、女性のスタッフが一斉に千秋さんを見た。
恐るべし、千秋さん。
そういえば、歩き方とか綺麗だなー。って思っていたけど、モデルのバイトしてたなら納得。
長身でスタイルのいい千秋さんはどんな服を着ても似合うしな。
女性の視線に気にもとめず、俺と長谷さんの所へと歩いてきた千秋さん。
「よっ!千秋」
「どうも、お久しぶりです。長谷さん。彩が勝手な行動しちゃってすみません」
千秋さんは、俺の隣。先ほどまで彩さんのいた場所に立ち、眉の下がった困った顔で長谷さんに謝った。
「いいよいいよ。碧くんもかわいいし、千秋には久しぶりに会えたし」
長谷さんはカメラのレンズを磨きながら言った。
…って、またかわいいって言われた。
確かに身長も低いけど、俺、男なんだけどなー。
あ、でも長谷さんは、冗談で言ったのかな。
「おいおい。千秋お前、顔」
カメラから視線をはずし、千秋さんを見た長谷さんはみるみるうちに蒼白な顔になっている。
んっ?
長谷さんの蒼白した顔は、まるで千秋さんに怯えているようで、不思議に思い横に立っている千秋さんを窺った。
そんな俺の視線に気づいた千秋さんは、いつもの笑顔で「どうしたの?」と聞いてきた。
何だ、いつもの千秋さんじゃん。
長谷さんどうしたのかな。
「……千秋のいる前で、碧くんに可愛いって言ったらいけないなー」
長谷さんは小さな声で呟き、レンズ磨きを再開した。
その声は蚊の鳴くほどの小さい声で、俺にも千秋さんにも聞こえなかった。
彩さんは流行している服を何着も着替えながら、撮影をしている。
やっぱりプロで、瞬時に様々な表情をカメラに向けている。
「……じゃあ、ちょっと休憩しようか」
長谷さんがカメラのレンズから視線をはずした。
「あおくーんっ!」
撮影の邪魔にならない所で千秋さんと立っていた俺のところに、一目散に走ってきた彩さん。
夏物のワンピースの裾がひらひらと揺れている。
「どう?撮影現場は?」
「なんかすごいですねー。彩さんもすごいです」
すごいとしか感想が言えないけど…。
きっと千秋さんも、こんな風にいろいろな服を着て、瞬時に様々な表情に切り替えていくんだろうなー。
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