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モデルの千秋さん

 千秋さんの載っている雑誌って今も売ってるんだろうか。  でも大学生の頃って言ってたから、やっぱりもう売ってないだろうな。  モデル姿の千秋さん見てみたかったな。 「あっ!私、今碧くんが考えていたことわかったかも!」  いきなり大きな声を出した彩さんに、千秋さんが「うるさい」と呟いたけど、聞こえなかったのかテンション高めに俺の耳元に顔を近づけた。 「――モデル姿の千秋見たいなーって思ったでしょ!?」  今思っていたことをズバリと当てられて、何も返事ができなかった俺を見てふふっと笑った彩さん。 「私が長谷さんに頼んで、千秋の写真あったら貰ってくるね!」 「えっ!?」 「じゃあ、ちょっと待ってて」  彩さんは駆け足で長谷さんの所へ走っていった。 「なんか、姉さんうるさくてごめんね」  彩さんの後ろ姿をぼーっと見ていた俺の横にいた千秋さんがぼそっと言った。 「大丈夫ですよ。彩さん楽しい人ですし」  それに、すごくいい人だ。  モデルの人って、イメージ的にちょっと意地悪で、我儘な人が多いのかなと思ってたけど、完全なる偏見だな。  彩さんの姿を頬を緩めながら見てしまっていった。 「……嫌だな」  いきなりそう呟いた千秋さんの声は、普段よりも幾分低い声で、俺は視線を横にいる千秋さんに向けた。 「え?」  少し眉間に皺がよって険しい顔をしている。  なんか、怒っている…? 「もう帰ろう?」  千秋さんは俺の方に体を向けた。  先程より、険が和らいだが、声はまだ少し低いままだ。  帰ってもいいけど…千秋さんの写真貰えるなら欲しいしな。 「おはようございます」  返事に困っていたところで、スタジオの中に新たな人が入ってきた。  何人かの女性スタッフが、手を止めて入ってきた人物を頬を染めて見詰めている。 「…あ」  この人知ってる。  最近、俳優としても様々なドラマや映画に引っ張りだこの水野レンだ。  そういえば、ついこの間、母さんが見ていたドラマにも出てたなー。

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