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モデルの千秋さん

 落ち着いた茶色の髪は、セットでなのか前髪も上げ、端正な顔立ちが露わになっている。 「…あれ?千秋さん?」  水野レンはスタジオの端に立っている千秋さんの姿にすぐ気づき、長い脚でスタスタと歩き近づいてきた。 「どうしたんですか?あれもしかして、久しぶりにモデル業復帰ですか?」 「はぁー。彩を送ってきただけ」 「なるほど」  どうやらふたりは顔見知りみたいだ。  確か水野レンもモデルだったもんなー。  最近は俳優業で売れてるけど。 「で、こちらの方は?」  水嶋レンの視線が俺に映った。訝しげに俺を見ている。 「……えーと。柏木碧といいます」  とりあえず、自分の名前を名乗って頭を下げた。 「ふーん。まぁいいや。今日俺、機嫌いいしー」  水野レンはなんかよく意味のわからないことを呟いたが、俺から興味が逸れたならいいか。 「碧くん、碧くん!」  と、タイミングよく彩さんが長谷さんのところから此方にやって来た。 「あ、レン!今日はよろしく」  傍にいた水野レンに蔑ろな挨拶をした彩さんは、またもや俺の耳元に近づいて「写真もらってきたよ」と耳打ちし、俺の手に黒色の袋を渡した。  昔の写真ってそんな簡単にあるんだな。と不思議に思ったけど、もらえたしいいか。 「ありがとうございます」 「いいよいいよ」  長谷さんにもお礼言わないとな。 「あ、そうそう。長谷さんが久しぶりに千秋を撮りたいってよ!」  えっ?千秋さんを? 「いやいいよ。俺もうモデルじゃないし」 「そう言わずにさ~」  彩さんはそう言い、続きは先ほど俺の耳元に囁いたように、千秋さんの耳元に背伸びし顔を近づけて言っている。 「ねっ。別に雑誌とかにも載らないし、いいじゃん」 「まあ、長谷さんがそんなに言うなら…」  さっきまで嫌そうな顔で、断っていた千秋さんが撮影に了承したことに驚いた。  彩さんは何を言ったんだろう…。  あっさり千秋さんをその気にさせるなんて――。 「よし。ほら準備してきて」  彩さんは千秋さんの背中を押しながら、スタジオの外へと連れて行った。

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