63 / 132

いってらっしゃいのキスは濃厚に

 * 「柏木先生どうしたんですか?」  職員室。  自分の席に座って、ぼーっとしていた俺にすぐさま声をかけた江崎先生。 「……いや、何もないです…」 「そうか?何かぼーっとしてるけど、始業式の挨拶緊張したんですか?」 「あっ、それもありますね」  ―――…  月曜日。  今日から新学期。  今年赴任した俺は、始業式で2年と3年の全生徒の前で挨拶しなければならない。  この挨拶のことを考えたら、朝起きたときから胃がキリキリして、緊張マックス。  2年と3年には、授業は教えないので、直接的な関わりはない。  それでも、やっぱり第一印象は大切で、ここでビシッと挨拶しないと。というプレッシャーが俺の胃を襲ってくる。  それはもう、朝ご飯が喉を通らないぐらいに…。  そんな俺の変化に、すぐ気づいた千秋さんは、朝ご飯で作ったエッグベネディクトをナイフで綺麗に切りながら「どうしたの?」と心配そうに聞いてきた。  眉が下がり、心配そうに俺の顔を見詰めている千秋さん。  これは、教師として生徒の前に立っているのが、先輩である千秋さんに相談しよう。  俺は緊張していること、挨拶どんな感じにしたらいいかを聞いた。   だが、千秋さんは俺の好きな優しくて綺麗な微笑み浮かべ、「大丈夫。碧なら大丈夫」とあまり参考にならない答えを出した。  結局、俺は早めに紀陵に行って、職員室で考えようと思い千秋さんより先に家を出ようとした。  玄関を開ける音に気づいた千秋さんが、シャツのボタンが中途半端に開いた状態で走ってきた。 「え、碧もう行くの?」 「はい。職員室で挨拶の言葉考えようと思って…」  中途半端に羽織ってるシャツの隙間から、千秋さんの綺麗に割れた腹筋がチラチラ見える。  千秋さん着痩せするタイプなんだなー。  俺はじっとその腹筋を見詰めた。 「そっか。一緒に行こうと思ったのにな…」

ともだちにシェアしよう!