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いってらっしゃいのキスは濃厚に
*
「柏木先生どうしたんですか?」
職員室。
自分の席に座って、ぼーっとしていた俺にすぐさま声をかけた江崎先生。
「……いや、何もないです…」
「そうか?何かぼーっとしてるけど、始業式の挨拶緊張したんですか?」
「あっ、それもありますね」
―――…
月曜日。
今日から新学期。
今年赴任した俺は、始業式で2年と3年の全生徒の前で挨拶しなければならない。
この挨拶のことを考えたら、朝起きたときから胃がキリキリして、緊張マックス。
2年と3年には、授業は教えないので、直接的な関わりはない。
それでも、やっぱり第一印象は大切で、ここでビシッと挨拶しないと。というプレッシャーが俺の胃を襲ってくる。
それはもう、朝ご飯が喉を通らないぐらいに…。
そんな俺の変化に、すぐ気づいた千秋さんは、朝ご飯で作ったエッグベネディクトをナイフで綺麗に切りながら「どうしたの?」と心配そうに聞いてきた。
眉が下がり、心配そうに俺の顔を見詰めている千秋さん。
これは、教師として生徒の前に立っているのが、先輩である千秋さんに相談しよう。
俺は緊張していること、挨拶どんな感じにしたらいいかを聞いた。
だが、千秋さんは俺の好きな優しくて綺麗な微笑み浮かべ、「大丈夫。碧なら大丈夫」とあまり参考にならない答えを出した。
結局、俺は早めに紀陵に行って、職員室で考えようと思い千秋さんより先に家を出ようとした。
玄関を開ける音に気づいた千秋さんが、シャツのボタンが中途半端に開いた状態で走ってきた。
「え、碧もう行くの?」
「はい。職員室で挨拶の言葉考えようと思って…」
中途半端に羽織ってるシャツの隙間から、千秋さんの綺麗に割れた腹筋がチラチラ見える。
千秋さん着痩せするタイプなんだなー。
俺はじっとその腹筋を見詰めた。
「そっか。一緒に行こうと思ったのにな…」
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