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いってらっしゃいのキスは濃厚に

「あれ?西先生、ホームルームは?」 「あっ、私副担なんで、自分の挨拶だけして、出て行きました」  何も問題ないように言っている西先生。  え、副担でもホームルームの途中で抜け出すのはダメなんじゃ…?  自分の席、俺の向かいに座った西先生は俺の顔を見て笑っている。 「いいんですよ~。何といっても2年3組の担任は、あの高宮先生なので、逆に私がいたら邪魔なはずです」 「……まぁ確かに」  妙に納得している江崎先生。 「高宮先生の人気はほんとすごいですよ~」  西先生は頬杖をついた。  でも人気なのは何となく納得だな。  千秋さんの綺麗な透き通る声は、すーっと自然に耳に入る。  そんな声で授業してるんだもんなー。 「……でも柏木先生も人気になりそう」 「え?」  なんで?  俺の声はごく普通だし、容姿だって平凡だけど。 「――高宮先生とセットで」 「…高宮先生と……」  …セットで?  どういう意味だろう?  西先生は頬杖をつきながら、心ここにあらずという感じで、恍惚とした表情を浮かべている。  職員室で西先生と江崎先生と他愛のない会話をしていたら、4限目終了のチャイムが鳴った。  今日は生徒たちは午前中で終わりだ。 「あぁ~。生徒たちはいいな~。今日は私も早く帰りたい」  独り言ののように呟いた西先生に、反応した江崎先生が「帰ればいいじゃないですか」と冗談で返している。 「……帰りたいわよ。家で妄想したい…」  そんな江崎先生の冗談に本気で答えてる。  妄想って、何を妄想するんだろう…?  ふと気になったが、西先生には聞かないでおいた。

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